スクエニ ITエンジニア ブログ

スクエニ欧州拠点が GCP でカスタマーデータプラットフォームを構築した話

こんにちは。スクエニのイギリス支社、ロンドンオフィスで働くヨシダタツオです。アナリティクス&インサイト部署のデータサイエンス部を担当しています。データとAIでスクエニのファンとゲームの関係性を深めるしくみを作っています。

スクエニ欧州拠点ではGoogle Cloud を活用してカスタマーデータプラットフォーム(CDP)の開発・運用を行っています。この取り組みについて Google Cloud のブログにて英語記事 を掲載しました。今回は、同じ情報を日本語でも共有するために、このIT エンジニアブログに寄稿することにしました。

カスタマーデータプラットフォーム(CDP)とは

CDPはビジネス全体のデータを収集し活用していくシステムです。一般的には、お客様一人ひとりのデータを収集し、管理し、分析するだけでなく、マーケティングやプロモーションに活用します。

スクエニ欧州拠点のCDP開発の経緯

ロンドンのアナリティクス&インサイト部署は、2009年にスクエニに買収されたアイドスというゲーム開発会社のデータ分析チームのルーツを持ちます。アイドスは2007年にゲームプレイデータの収集、分析、機械学習の適用をゲーム業界においていち早く導入し、スクエニに統合後もその活動を継続しています。

2007年当時、データ分析基盤としてMicrosoft SQL Serverを利用していましたが、2013年頃にゲームのオンライン化に伴うデータ量の増加に伴いPlutoというAWSベースの内製システムに移行しました。
CDP開発の直接のきっかけの一つは2018年に導入された新しいプライバシー法(GDPR)でした。それ以前に主流であったマーケティング手法は、ユーザーデータを提供する会社やそれを活用するデータ連動型の既成ソリューション(例えば、Data Management Platformなど)に依存していました。しかし、GDPRの導入によりこれらの手法が制限され、自社でデータを集める必要性に直面しました。その結果、既存のゲームデータ分析システムであるPlutoを置き換える形で、Google CloudをベースとしたSingle Gamer View(SGV)というシステムが開発され、マーケティングデータ、ユーザーデータ、ゲームデータが一元化されました。

CDPの分析活用・アクティベーション

データを統合することで、ユーザーの行動のすべて、つまりメールや広告へのクリック、購入、ゲームプレイからリテンションまでを分析できるようになりました。さらに、ゲームは多くの人にとって生涯にわたる情熱であることも踏まえ、5~10年単位でのユーザーエンゲージメントの分析も行っています。
また、このシステムはマーケティングオートメーションとファンとの関係構築を提供するeCRM CDP機能を実現しています。一方、ソーシャルチャネルやメディアのアクティベーションへは既成のCDPをコネクターとして活用することで対応しています。

AIドリブン・マーケティング

CDPの本当の価値は、単にデータを分析するだけでなく、ユーザーエンゲージメントの向上に役立てることにあります。データサイエンスチームでは「旧作ゲームの体験版のレコメンド」、「プレイ中のゲームの継続促進」、「プレイスタイルの理解と適切なメッセージング」などを行っています。

マーケティングオートメーションとフィードバックループ

ユーザーデータに各種行動データが紐づくことで、実際のユーザーの行動をトリガーとしたコミュニケーションが自動で行えるようになり、マーケティングオートメーションが実現しました。さらに、メッセージを受け取った人のエンゲージメントが向上したかどうか、例えばプレイを止めたゲームを再度起動したかどうかがフィードバックされ、自動でメッセージが最適化されていきます。

体験版のレコメンド

スクエニの旧作のカタログは豊富にありますが、その数はあまりにも多く、ユーザーが遊びたいゲームと巡り合えないということを課題と感じています。その課題の解決のため、今遊んでいるゲームのストーリーをクリアしたことをゲームデータから検知したタイミングで個人に合わせたタイトルの体験版のレコメンデーションを行う仕組みを運用しています。モデルは、レコメンドした体験版が実際にプレイされたかどうかや、プレイ時間をフィードバックとして受け取り、学習し、最適化します。

体験版レコメンデーションエンジンのフロー

プレーヤーの継続・復帰の向上

ゲームを購入してもらって終わりではなく、実際にプレイしてもらい、その魅力を体感してもらうことが、ファンとの長期的な関係構築につながると考えています。 そこでプレイスタイルや好みのキャラクター、興味を持つコンテンツを特定し、プレイヤーのニーズに合わせた個別のコミュニケーションを行っています。例えば、PvPを好むプレイヤーにPvPコンテンツの最新情報を提供することで、プレーヤーのエンゲージメントや継続率を高めることができます。実際、このデータドリブンなアプローチを導入した後、特定のゲームにおいて継続・復帰するプレイヤーが大幅に増加しました。

2024年のマーケティングROI測定:Cookie規制とMMM活用

デジタル広告のプライバシー規制が厳しくなり、特にサードパーティCookieの段階的廃止が進む中、マーケティング費用対効果の測定が難しくなっています。その結果、マーケティングミックスモデリング(MMM)が再注目されています。MMMは、様々なマーケティング施策が売上に与える影響を推定し、それぞれの施策の貢献度を評価するために使用される古典的な統計手法です。

社内でデータが一元化されていない場合は、MMMプロジェクトは必要なデータの定義、データ保管場所の特定・手配、データクリーニングや整形など、モデリングの準備段階だけで数か月を要するものでした。
現在はCDP上にデータが統合管理されているため、必要なデータに即座にアクセスし、素早くモデルのPoC作業に着手することができるようになりました。また、Google Cloudを採用していることで、Supermetricsといったデータの一元化ツールや、Google Trendのトレンドデータへのアクセスが容易になり、モデルの精度を高めています。

マーケティング施策が売上影響を評価するマーケティングミックスモデルの実例

Single Gamer ViewのCDP機能の技術的なセットアップ

基本的にはGoogle Cloudのサービス、特にサーバーレスと呼ばれるサーバー管理が不要なサービスを選んで構築することで、少人数での運用を実現しています。

  • データソース: ゲーム、 GA360メンバーシップ、メール、セールス、ウェブ広告(Supermetrics)
  • パイプライン: Pub/SubDataflowBigQuery
  • ユーザーアクティベーション: Vertex AI (もしくはCI/CD Docker->GKE)からメールやウェブ広告にユーザーリストを共有

チーム間の連携とAIシステムのアジャイルリリース

ブランドマネジャー、コミュニティマネジャー、データアナリスト、データサイエンティスト、データエンジニア、データプロテクションまで、異なる部署間の連携体制を作り、組織としてAI活用に挑戦しています。プロジェクトは通常、データアナリストがプロジェクトの提案書を作成しプロジェクトの価値を試算することから始まります。その後、コミュニティマネージャーやブランドチームがレビューし、プレイヤーやコミュニティのニーズに合っているか確認します。
プロジェクト承認が下りた後、データサイエンティストはアジャイルアプローチに基づいて、最も簡単なルールベースでの実装を行いリリースします。その後、例えばメール送信の場合は、実際に送信したメールがユーザーのエンゲージメント向上につながっているかを確認し、段階的により高度な機械学習ベースの手法に移行します。 データエンジニアリングチームとデータプロテクションチームは、データセキュリティ要件を満たしていること、および機械学習システムの運用が効率的に行われているかを監視します。

取り組みの成果

CDP によるデータ連動のメールプロモーションによって、メールのパフォーマンス(例えばクリック率など)が多くの場合20%ほど向上しました。レコメンデーションエンジンがロングテール化したニーズにうまく対応した場合には150%の向上もみられたケースもあります。

また、カタログタイトル体験版のプロモーション、継続促進メール、フィードバック調査などのタスクはAIによる自動最適化システムでの管理が業務効率の点で重要です。AI活用以前はこれらの活動はあまり行われていませんでしたが、その理由としては、人力ベースのオペレーションでは作業量の多さと得られる成果の比較において割が合わない領域であったからだといえます。

取り組みの際に参考にした資料

以下は、アナリティクス&インサイト部署のデータサイエンスチームがCDP機能を構築する際に使用した資料です。Google Cloudでは機械学習のマーケティング活用に関するドキュメントが豊富にあり、すばやく実装に移るための手助けとなります。

権利表記

  • “Google Cloud Platform™ service”, “Google Analytics™ service”, “Vertex AI™ unified ML platform”, “Google Ads”, “Looker™ business intelligence platform”, および “Google Cloud” ロゴは、Google LLCの登録商標または商標です。

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