MySQL InnoDB Cluster入門
データベースの設計や運用において、エンジニアが最も頭を悩ませる問題の一つに、データの不整合を防ぐことがあるかと思います。これは信頼性やパフォーマンスの向上に直結するものとなります。
MySQL InnoDB Clusterは、複数のMySQLサーバー間でデータを同期し、一貫性のあるデータベースを提供するための強力な仕組みとなるものです。
そこでInnoDB Clusterの基本概念や、主要コンポーネントの役割についてまとめてみました。
MySQL InnoDB Clusterとは
MySQLデータベースにおいて高可用性を実現するための技術で、自動フェイルオーバー機能を提供します。
これにより、データベースシステムのダウンタイムを最小限に抑えることが可能になります。
MySQL InnoDB Clusterを使用する目的と理由
InnoDB Clusterは、複数のデータベースサーバーを組み合わせて一つの「クラスタ」として機能させることで、以下のような利点を提供します。
クラスタとは、複数のサーバーが協力して一つの統一されたシステムとして動作することを指します。 これにより、高可用性、データの一貫性、スケーラビリティなどの目的を達成できます。
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高可用性の確保
- クラスタ内のサーバー間で自動フェイルオーバーとフェイルバック機能を提供し、システムのダウンタイムを最小限に抑えます。
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データの一貫性と整合性
- クラスタ内で動作している個々のデータベースサーバー(ノード)がデータをリアルタイムで同期することを可能にし、クラスタ内のすべてのノード間でトランザクションがリアルタイムで同期されます。
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システムのスケーラビリティ
- クラスタ内のノードを柔軟に追加または削除することが可能です。これにより、アプリケーションの成長に合わせてデータベースのリソースをスケーリングすることができます。
その他可用構成との比較
- MySQLレプリケーション
- マスターの障害発生時にスレーブが最新の状態でない場合、データのロスが発生するリスクがあります。
- 障害時にスレーブをマスターに昇格した後に、アプリケーションの接続切り替え作業が必須となります。
- MHA for MySQL
- InnoDB Clusterと同じフェイルオーバーを自動化しますが、フェイルオーバープロセスには数秒から数分のダウンタイムが発生することがあります。
- 一度マスターから外れたノード(元のマスター)の復旧と再統合には手動での介入が必要となります。
- MySQL Cluster(NDB Cluster)
- InnoDBで利用できません。
MySQL InnoDB Clusterの主要コンポーネントとその役割
以下に、InnoDB Clusterを形成する主要なコンポーネントを紹介し、それぞれがどのような役割を果たしているかを説明します。
- MySQL Group Replication
- データの一貫性と整合性を保つためのレプリケーション機能を提供します。
- MySQL Router
- アプリケーションからのリクエストを適切なデータベースサーバーにルーティングします。
- MySQL Shell
- クラスタの設定、監視、管理の一元化を行うツールです。
構成図
簡単な構成図としてはこのようになります。
それぞれどのように連携し、冗長性を担保しているかをコンポーネント単位で説明します。
MySQL Group Replication
役割
MySQL Group Replicationは、クラスタ内の全ノードでデータの一貫性と耐障害性を保つためのキーとなるコンポーネントです。
プライマリノードとして機能する1台のサーバーと、データのコピーを保持し同期するセカンダリノードとして機能する2台のサーバーで構成されています。(Group Replicationは最小で3台構成となります)
この構成により、プライマリノードが障害により使用できなくなった場合に、セカンダリノードの一つが自動的にプライマリの役割を引き継ぎます。 また、すべてのノード間でデータがリアルタイムで同期されるため、データの一貫性と整合性が保たれます。
利点
高可用性とデータの整合性を保ちながら、任意のノードで読み書きが可能です。フェイルオーバーが迅速に行われるため、障害発生時のダウンタイムが最小限に抑えられます。
MySQL Router
役割
MySQL Routerはクライアントアプリケーションからのリクエストを適切なデータベースサーバーに透過的に転送するロードバランサーです。
クライアントからのクエリを適切なデータベースノードにルーティングする役割を持ちます。 クエリはこのルーターを通じてプライマリノードまたはセカンダリノードに送られ、その結果がクライアントに返送されます。
これにより、負荷分散が実現され、リードクエリのパフォーマンスが向上します。
利点
アプリケーション側からのデータベース接続の管理を簡素化します。また、クラスタへの接続を管理することで、負荷の自動分散も行います。
MySQL Shell
役割
MySQL Shellは、データベースクラスタの設定や管理を行うためのツールです。
管理者はMySQL Shellを通じてクラスタの構成を設定し、変更を加えることができます。また、クラスタの状態を監視し、必要に応じて介入することも可能です。
利点
リモートのMySQLインスタンスに接続して操作することができ、分散環境での管理が容易になります。 クラスタのセットアップや管理などの複雑な操作をシンプルに実行できます。
まとめ
AWSやGCPのクラウドサービスを活用すれば、データベースの高可用性やスケーラビリティの実現が比較的容易になるかもしれません。しかしながら、予算や運用ポリシーなどの事情によりクラウドの利用が難しい場合、MySQL InnoDB Clusterは強力な選択肢となるかと思います。
InnoDB Clusterはオンプレミス環境でも高い可用性とデータの一貫性を提供し、運用の安定性を確保するための重要なツールとなります。要件に合わせて適切に設計・運用することで、クラウドに頼らない一貫性のあるデータベース環境を構築できると思います。