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2025年11月28日

第8回:ノベルシナリオのハナシ

Lv1.人選ミス?

和田
当ブログを読んでいただきありがとうございます。
NieRシナリオ班のリーダー和田です。今回も『NieR Re[in]carnation(以下、リィンカネ)』の開発トークをしていきたいと思います。
さっそく、ゲストとしてお呼びしたお二人を紹介していきましょう。


皆さんこんにちは。一 二階(にのまえ にかい)といいます。
私はフリーランスでシナリオの仕事をしていまして、NieRシナリオ班にもフリーのライターという立場で所属させてもらっています。

原田
どうも。原田香林です。シナリオライターです。

和田
お二人ともよろしくお願いします。では、肝心の本日のテーマですが......

原田
ところで、和田さん。この記事で私の名前はなんて出るんですか?

和田
......え? 普段通りなら苗字で「原田」って書くと思いますけど?

原田
「かりん様」でお願いします。

和田
......え?

原田
え?

和田
いや、いきなり話者表記の注文が来るとは思わなかったので......まあ、いいでしょう。

かりん様
やったー。

和田
それなら一 二階さんにも、記事での呼び方の要望があれば聞いておきましょうか?

二階
では、私は「二階」でお願いします。若気の至りで変わったペンネームを名乗っているのですが、何故か誰も名字で呼んでくれず、いつも「二階」と呼ばれているので(笑)

和田
わかりました。二階さんとかりん様、改めてよろしくお願いします。

二階かりん様
よろしくお願いします。

和田
気を取り直しまして......今回のブログテーマは「ノベルシナリオ」でやっていきたいと思います。

二階
ノベルシナリオというと、「イベントストーリー」や「真暗ノ記憶」を始めとした、小説形式のシナリオのことですね。参考に動画を出しておきます。

兵長グリフのノベルシナリオ「真暗ノ記憶」のゲーム映像

和田
ありがとうございます。今回のゲストであるお二人は、特にノベルシナリオに深く関わってもらったライターということでお呼びしました。

かりん様
リィンカネのノベルシナリオ、いいですよね。キャラクターの朗読も相まって、全身でそのキャラの心情を浴びられた気分になりますから。

二階
ライター側も、それぞれのキャラと深く向き合うことを求められるお仕事ですよね。

かりん様
で、主にどういうことを語ればいいんですか?

和田
そうですね、手始めにノベルシナリオの"成り立ち"から話していくのはどうでしょう?

かりん様
............

二階
えっと......

和田
あれ? 二人ともどうかしました?

かりん様
だって、ウチらNieRシナリオ班の"二期生"として入ったので。

二階
ノベルシナリオが最初にどう企画されて生まれたのか、詳細を知らないんですよね。

和田
そうでした......"二期生"のみんなは、リィンカネの『太陽と月の物語』の後半くらいの時期からチームに入ってくれたんでしたね。

かりん様
和田さん、もしかしてゲストの人選ミスじゃないの?

和田
むむ......企画当時のことを知っているのは僕しかいないようなので、このまま話してしまいますね......

二階
お願いします。

和田
この開発者ブログでも度々触れられてきましたが、3Dマップの『檻(ケージ)』を舞台に展開されるメインシナリオは、開発コストが非常に大きいんです。

二階
そんなメインシナリオと同時並行で、他のシナリオコンテンツも用意しないといけないとなると......開発が大変そうですね。

和田
まさに。キャラの魅力をしっかり描きつつ、かつ、コストの高い3D背景を作らない方針で「ノベルシナリオ」が生まれました。

かりん様
リィンカネには、さっき例で出てた軍人や戦争をテーマにした世界もあれば......

二階
SF的な超未来世界など、異なる世界観のシナリオも登場していましたよね。

SF世界観のキャラクターF66xの、「真暗ノ記憶」のゲーム映像

和田
本当に様々な世界観が混在していました。

二階
だからこそ、コスト面で3Dでは表現できないロケーションや展開があっても、ノベルという形式ならば実現できたという訳ですね。

和田
そうですね。例えば、『太陽と月の物語』の主人公である陽那や佑月の「真暗ノ記憶」で描いた世界観は、ノベルシナリオがなければ実現していなかったと思います。

二階
NieRシリーズのコアファンの方々にとっては聞き馴染みのある、『レギオン』や『白塩化症候群』の世界がリィンカネで読めるとは思いませんでしたよね。

佑月の異分岐世界の物語が描かれる「真暗ノ記憶」のゲーム映像

b08_lv01_01.jpg 佑月は本来"高校生"であるキャラだが、異分岐世界では軍人として登場した

かりん様
いやほんと、そう。

和田
あの......かりん様? 一応、この対談が記事になるので、言葉遣いはしっかりしてくださいね?

かりん様
すみません。つい(笑)

和田
まあ、かりん様は普段から敬語が苦手で、NieRシリーズの重鎮である齊藤プロデューサーやヨコオさんに対してもタメ口が出てしまうので......

二階
(笑)
私も対談には慣れていないので、一緒に敬語を頑張って乗り切りましょうね!

かりん様
はーい。

和田
さすが大人な対応......二階さんは、普段の働きやシナリオ面でも本当に頼りになる方で助かっています......

二階
とんでもないです(笑)

和田
さて、今回の対談を無事に終えられるのかいささか不安になりましたが......とにかく本題に入っていきましょう。

Lv2.面白ポイント

かりん様
振り返ってみると、リィンカネにはいろんな形式のノベルシナリオがありましたよね。

二階
そうですね。ちょっと簡単に表でまとめてみましょうか。

b08_lv02_01.jpgリィンカネにおけるノベルシナリオの一覧

和田
どれも地の文が主体のノベルシナリオですが、語るテーマや文字数を変えて、少しずつ違いを出していたんです。

かりん様
イベントストーリーとかは、キャラの深堀りをどこまでしていいのか書く度に迷ってましたね。

二階
難しいですよね。イベントストーリーはゲームの進行状況に関わらずプレイできるので、メインシナリオのネタバレをしないよう気を付けたり......

和田
サービスが続いて、イベントが開催され続ける限りシナリオを考えることになるので、具体的な時系列がわかる事件を描きにくかったり。

かりん様
制約は多かったけど、逆に制約がなければ生まれなかったシナリオもたくさんある気がします。

SF世界観のキャラクター063yの、「イベントストーリー」のゲーム映像

和田
一覧表に戻りますが、「文字数の目安」も気にしてプレイされる方は少なそうですね。

二階
かなりキャラクター性に切り込んだ内容の「真暗ノ記憶」や「虚光ノ想憶」も、ノベルとしての文字数は意外とコンパクトなんです。

かりん様
4話で6000文字だと物足りないので、10000文字とか書きたかったです。

二階
ライター目線だと、もっと書きたくなっちゃいますよね(笑)

和田
ただ、文字数が多くなればなるほど、朗読ボイスを収録する費用が増えたり......

二階
海外版へのローカライズ費用が増えたりするので、文字数はしっかり守って書かないといけません。

かりん様
そこら辺、考えること多くて難しいんですよね。

和田
そして何より、リィンカネはノベルシナリオだけのゲームではないので。長文のシナリオを読むことを退屈に感じるお客様もいることを念頭に、文字数の設計は慎重に行いましたね。

かりん様
なるほどね。......で、和田さん。

和田
なんでしょう?

かりん様
今、手元のノートPCでグリフの「虚光ノ想憶」の文字数を数えてみたんだけど、普通に8000文字近くありますよ?

兵長グリフの「虚光ノ想憶」のゲーム映像

和田
ああ......「虚光ノ想憶」はサービス後半でリリースされたシナリオなので、少し文字数の制限を緩くしたりしています......

二階
その頃になると、長文のノベルシナリオに慣れているお客様の割合も増えていそうですしね。

かりん様
あと、「虚光ノ想憶」はキャラにとっても超重要なシナリオなので、どうしてもプロットの内容が増えがちですよね。

和田
それは間違いないですね。

二階
それなら、次はプロットを見ながら開発トークをしてみませんか?

和田
そうしましょうか。では、かりん様に話題になりそうなプロットを選んでもらって......

かりん様
実は、そう来るかと思ってもうプロットを準備してました。

和田
お、準備がいいですね。

かりん様
............

二階
したり顔でピースしてても、黙っていたら記事ではわからないですよ(笑)

かりん様
はーい。それじゃ、こちらのプロットを見てください。

b08_lv02_02.jpg

少年兵ラルスのシナリオの骨子となるプロット

和田
ありがとうございます。これは......少年兵ラルスの「シークレットストーリー」のプロットですね。

かりん様
そうです。私がシナリオ班に入って初めて書いた思い出のプロットです。

二階
ノベルシナリオのプロットは、NieRシリーズでお馴染みの「ウェポンストーリー」に倣って、Lv1〜Lv4という起承転結の構成で書かれています。

和田
すみませんが、リィンカネの公式資料集で本文も読むことができるので、念のためオチとなるLv4は隠して掲載しようと思います。

かりん様
それぞれのLvに★マークがついている行がありますよね。これは「面白ポイント」と呼んでいて、ノベルシナリオのプロット特有のルールなんです。

和田
プロットのLv毎に、読み手が面白いと思ったり、心が動くポイントを必ず1個以上入れましょうというルールですね。

二階
このプロットの場合だと「ラルスがある目的のため故郷の街へ向かう」という、話的にはよくある導入ですが......

かりん様
街への道中を、"ひまわりが咲きほこる廃線路"というロケーションにしました。

和田
その情景だけでも、読み手の印象に残りそうですよね。

かりん様
それに、その場所がラルスの心情や物語とリンクして、よりドラマチックなシーンになったんじゃないかなと思っています。

b08_lv02_03.jpg少年兵ラルスのシークレットストーリーに添えられたスチルアート。廃線路の周辺に咲き誇るひまわりが印象的

和田
そうですね。「面白ポイント」には、物語的に面白い展開だけでなく、美しい情景描写など、根源的に人の心を動かす要素が書かれるという訳ですね。

かりん様
ひまわりを見た時に、ラルスを思い出してくれるお客様が増えてくれることを願って書きました。

二階
今かりん様が言ったような、「面白ポイント」がシナリオにどう寄与するか? 実際に読み手の心を動かすか? は、プロットの"監修"時にもしっかりチェックしていましたね。

Lv3.監修にはドラマがある

和田
"監修"というワードが出たところで、ここからは監修にまつわる話をするのがいいと思いました。

二階
そうしましょうか。ノベルシナリオが完成するまでに、様々な工程があるのですが......

①担当者がプロットを作成。
②監修者による監修。
③フィードバック修正。
④ヨコオさんによる監修。
⑤フィードバック修正。
⑥担当者がシナリオテキストを作成。
⑦監修者による監修。
⑧フィードバック修正。
⑨ヨコオさんによる監修。
⑩ゲームへの実装工程へ......

かりん様
テキストが完成するまでだけで、工程多すぎでしょ!

二階
まあまあ......(笑)
今話した通り、次の工程へ進む前に必ず"監修"というターンが入るんですよね。

和田
ノベルテキストの監修は、主に僕と二階さんの体制で手分けして行っていました。

二階
個人的にですが、監修とはお客様に出す前に"試食をする係"だと思っています。どんな味付けなら作品やキャラクターが引き立つかを考えつつ、担当ライターさんに修正などをお願いしていましたね。

かりん様
二階さんは、監修のフィードバックと合わせて長めに「ここが面白かったよ」って感想もくれるので、それがすごくうれしかったです。

二階
それは単純に、私がライター側の時に感想をもらえるとうれしいからですね。だから、逆に監修をする時はできる限り感想を添えるようにしていました。

かりん様
おかげでモチベーション爆上がりでした。逆に和田さんは、淡々としたフィードバックで、全然褒めてくれませんよね。

和田
まあ、そうかもですね......褒めの安売りはしない主義なので。

二階
監修スタイルも人それぞれですね(笑)

かりん様
和田さんのフィードバックも正論なんだけど......前に、私のプロットを監修でボツにしたことは今も根に持ってますからね。

和田
あー......それって、フィオの虚光ノ想憶のことですか?

かりん様
それです。

二階
どんなお話だったんですか?

かりん様
実は、フィオの虚光ノ想憶で一番初めに書いたプロットは、フィオの"お母さん"が主人公のお話にしてました。これですこれ。

b08_lv03_01.jpg

『少女と怪物の物語』の主人公であるフィオの「虚光ノ想憶」の初期プロット。ボツになったもの

和田
覚えてますよ。物語の構造的な課題とか、目標の文字数に対して情報が多くなりすぎる、みたいな話をしていたと思います。

かりん様
それでも諦めきれなくて、無理言ってヨコオさん監修に出させてもらったんだけど、結局ボツになりました......

二階
ライター業では、そういうことも多々ありますね。初めに書きたかった話がボツになって、新しく書きたい話を見つけることの繰り返しです。

かりん様
はい......なので、もちろん完成版もすごく気に入ってます。ブログを読んでくれている皆さんも、よければ資料集などでご覧ください......!

b08_lv03_02.jpg

フィオの「虚光ノ想憶」の最終的なプロット

和田
さて、何気に和田との監修エピソードになってしまったので......二階さんとの監修エピソードもお願いできればと思います。

かりん様
うーん、色々あって何のことを話そうかなあ......

二階
例えばそうですね......ラルスの「虚光ノ想憶」の話とか?

かりん様
あー、めっちゃいいですね。そのことを話しましょう。えっと、最初ラルスのお話はレプリカントの「少年ニーア」寄りの暗い話として書いていたんですけど。なんか、敵に捕まったり闇落ちしたりね......でも二階さんに、「もう少し少年漫画の主人公寄りの方がいい」と言われて、方向転換しました。それでそれで......

和田
あの、対談にも一応リズムというものがありまして、あまり喋りす......

二階
あったね~! 最初に見せてもらったプロットは、ラルスが何度も挫折したり、紆余曲折がもっとあったんだよね。それも面白かったんだけど、ラルスには対のペアとなるキャラクターとして「グリフ」がいるから。この質感の暗さはグリフ担当だろうということで(笑) 対比となるようラルスの方はもう少し希望だったり、王道的な要素を強めに入れてみるのはどうだろうと提案したんだよね。

かりん様
そうそうそう。ラルスは絶望的な状態に置かれているけど、人に恵まれているというか、本人の周りに希望が散らばっている感じ。結果、未来のある道を選べたような。だから、監修通りに調整してよかったと思います。この辺りは難しいところですけど、お客様の持っているラルス像もひとつじゃなくて、色々な思いや考えがあるし――


――それから30分後。


二階
そういえば、あのプロットのフィードバックの時、最初どう伝えようか迷って、私変なこと言ったんだけど、覚えてるかな?(笑)

かりん様
めっちゃ覚えてます(笑)
いきなり「ちょっといいですか?」って二階さんに会議室に呼び出されて、ビクビクしながら行ったら、「このプロットはちょっとエロティックすぎる」と言われて(笑)

二階
(笑)
ほら、初期のプロットはラルスが敵に捕まって闇落ちしたりしてたじゃない? 性的なシーンがある訳ではないんだけど、書き手が想定していないようなエロティックなニュアンスが出てしまいそうだと思って......

かりん様
いやでも実はその言葉で、二階さんのフィードバックの方向性がすごい伝わって。

二階
かりん様ならくみ取ってくれると思ってた(笑)

和田
............

かりん様
あ、忘れてたけど和田さん。あんまり開発者ブログっぽくないワードとかでちゃいましたけど、いいよね。

和田
......え、はい。
なんか、二人とも何かのスイッチが入ってしまったようだったので、別の仕事をしていました。

二階
和田さんも、ついてきてくださいよ。作品について語り合うのは、監修の仕事のうちですよ?

和田
努力します......

b08_lv03_03.jpg

かりん様と二階さんのやりとりの末に完成した、ラルスの「虚光ノ想憶」の最終的なプロット

Lv4.お気に入りの物語

和田
さて......お二人のシナリオ愛の一片が伝わったところで、そろそろ対談も締めの時間となりました。

かりん様
まだ話し足りないので、最後に各々のお気に入りノベルシナリオを紹介するのはどうですか?

二階
いいですね。でも、これ以上対談を長引かせると和田さんが困ってしまいそうなので、手短に(笑)

かりん様
はーい。

和田
仕方ないですね......これが最後ですよ。

二階
ではさくさくといきましょう。私は、063yとF66xのシークレットストーリーが気に入っていますね。

b08_lv04_01.jpgb08_lv04_02.jpg063yとF66xの「シークレットストーリー」画面

和田
そのお話ですが、キャラ設定にかなり踏み込んだ内容ではなかったでしたっけ?

二階
はい。シークレットストーリーが実装された時期もサービス中盤以降だったこともあり、彼らが「クローン」であるというネタバレをある程度気にせず、よりキャラを深堀りするシナリオに挑戦できました。

かりん様
それに、それまでの063yとF66xのキャラ性とは違う描き方をしていましたよね?

二階
そうですね。基本のキャラ性として、063yは"頼れる父親"、F66xは"優しい母親"なので、シークレットストーリーではそこを反転させてみたんです。

かりん様
確かにそうでした。

二階
いろんなクローンがいるのなら、二人も普段とは異なる面を無理なく見せられるのでは......という狙いがありましたね。

和田
二階さんはライターとして経歴も長くベテランなので、そういう難易度の高いシナリオも安心してお任せできる安心感がありました。

二階
そう言ってもらえるとありがたいですね(笑)

かりん様
じゃあ、次は私の番で......『ヒトと世界の物語』のエンディングで、少女フィオの独白がノベルで描かれるシーンがお気に入りです。

『ヒトと世界の物語』のエンディングで描かれたノベルシナリオ

和田
そのシーンが挙がるとは、意外でしたね。

かりん様
物語のクライマックスで孤独な世界に閉じ込められたフィオが、自分の大切なものを思い出して前を向く......という内容のノベルです。

二階
そのノベルですが、ラストバトル直後ということも相まって、ストーリーの緩急というかメリハリが生まれてよかったと思いますよ。

かりん様
ですよね。このノベルは、「リィンカネが終わったとしても、リィンカネのキャラはどんな時もプレイヤーさん達の傍にいる」という希望を、フィオの独白を通して表現できればいいなと思って書きました。

二階
その気持ち、お客様にも届いているといいですね。

和田
かりん様は、チーム内でも特に多くのノベルシナリオを書いてくれましたよね。その実績から、リィンカネの公式資料集や15周年記念の「スペシャルノベル」では、執筆だけでなく監修も手伝ってもらいました。チームに入ったときは新人ライターでしたが、素晴らしい成長だったと思いますね。

かりん様
............

和田
......あれ、聞いてました?

かりん様
え? 何か言いました?

二階
どうやら、デスクに置いてある"ぬいぐるみ"の角度を直していて、聞いていなかったみたいです(笑)

かりん様
ごめんごめんごめん(笑)
自分の喋る番が終わったので別のことしてました。

和田
もう二度と、かりん様を褒めたりしないと心に誓いました......

かりん様
えー、褒めてくださいよ。代わりに和田さんにもお気に入りシナリオ聞いてあげるから。

和田
......うーん、お気に入りと言われるとどれを話そうか迷いますね。

かりん様
和田さんは、陽那の「真暗ノ記憶」をあげるかと思ってました。

和田
それは何故?

かりん様
だって、なんか文章がノリノリでしたよね?

陽那の異分岐の物語が描かれる「真暗ノ記憶」のゲーム映像

b08_lv04_03.jpg異分岐世界では、陽那は軍人として登場した

和田
まあ......陽那の「真暗ノ記憶」の物語の"オチ"は、高校生の陽那というキャラクターが生まれた時に既にイメージがあったものでしたからね。いや、本来の高校生としての陽那というキャラクターと、真暗ストーリーで軍人となった陽那は一見別人みたいに見えるかもしれませんが、本質的に人格の部分はあまり変わらないんじゃないかなと思っていたり......って、つい乗せられて語ってしまいました......

二階
和田さんも、作品語りしちゃいましたね(笑)

かりん様
じゃ、みんな話したいことは話せたと思うので、対談も締めですかね。

和田
はい。でもその前に、もうひとつ大切なことをお話したいと思います。

二階
今回ノベルシナリオについて、NieRシナリオ班を中心にお話ししてきましたが......実際には、プロットやテキスト執筆に関わってくださったシナリオライターさん達が他にもいらっしゃるんです。

和田
アプリボットの栗原寬樹さん。
エッジワークスの蔦町未明さん。
シナリオ工房 月光の高崎とおるさん。
そして、フリーでご活躍されている保坂歩さん......

和田二階かりん様
本当にお世話になりました!

二階
私達シナリオ班がどれだけ助けられたことか、感謝してもしきれません。

かりん様
皆さんがいてくださったおかげで、ノベルシナリオをしっかりお客様へ届けられたと思います。

和田
重ね重ねありがとうございました。
では、本当にこれが最後で......お二人からもブログ読者の皆さまに一言お願いします。

二階
こんな風にリィンカネのことを話せる場をいただけて、大変ありがたい&嬉しかったです! これもリィンカネを愛してくださるお客様がいるからこそです。本当に、本当にありがとうございました。
じゃあ次、かりん様お願いします。

かりん様
やっぱりまだリィンカネの話したいんですけど、ダメですか? さっきラルスの話をしたので、ひとまず次はグリフの話をしましょ......

和田
次の機会があればお願いします......(笑)
では、ありがとうございました。次回更新をお楽しみに。

<おわり>

2025年10月31日

第7回:運営のハナシ

Lv1.ソシャゲ運営の布石

和田
こんにちは。NieRシナリオ班のリーダーをしています、和田です。
今回はゲストとして、『NieR Re[in]carnation(以下、リィンカネ)』のプロデューサー陣にお越しいただきました。

及川
株式会社アプリボットの及川です。リィンカネでは運営プロデューサーを務めていました。

横山
リィンカネのプロデューサーをしていました、スクウェア・エニックスの横山です。

和田
今回は、リィンカネの運営やプロモーションについて色々話せたらと思います。お二人ともよろしくお願いします。

及川横山
よろしくお願いします。

和田
横山さんと僕は、今も社内で毎日のように顔を合わせていますが......及川さんとお会いするのは久しぶりですね。もう少し自己紹介を伺ってもいいでしょうか?

及川
そうですね......僕は「囲碁」が特技で、ずっと白黒の世界で生きてきたんです。なので、リィンカネは自分にとても合っているなと思いながら関わっていました(笑)

和田
リィンカネのビジュアルは、彩度が低いですからね(笑)

横山
ズルいなぁ、そんなキャッチーな自己紹介、僕は思いつきませんよ(笑)

b07_lv01_01.jpgリィンカネのリリース記念ガチャで用意されたプロモーション資材。コスチュームも白と黒

和田
次は横山さんにもお話を伺っていきましょう。
横山さんは、NieRシリーズの始まりである『NieR Replicant/Gestalt』の立ち上げから関わられていましたよね?

横山
そうですね。当時は予算もなくて、その時のスクエニ側スタッフは、NieRシリーズプロデューサーである齊藤さんと僕だけでした。

和田
リィンカネでも立ち上げ時から関わっていたとお聞きしているので、流れでお話伺ってもいいでしょうか?

横山
もちろんです。今日はリィンカネの正式プロジェクト化前の企画書を持って来たんですが......最初期案ではかなりライトなゲームでした。

b07_lv01_02.jpgb07_lv01_03.jpgリィンカネの最初期の企画書(抜粋)。実際のリィンカネのゲーム体験とは方向性が異なるものだった

及川
おお。この企画書は、僕やディレクターの松川が関わるより前のものですね?

横山
はい。そこから「NieRなのだからストーリーがあるのは必須だよね」となり、ヨコオさんにもより深く関わっていただく方向で詰めていきました。

b07_lv01_04.jpgゲームの内容を詰めている段階の企画書(抜粋)。最終的なリィンカネの原型となっている

和田
よりシナリオを中心に据えた作品へと変化していったわけですね。貴重な資料をありがとうございます。

横山
読者の方に喜んでもらえたら幸いです。僕から出せるお宝資料はあまりないので(笑)

和田
まだまだ期待させていただきます(笑)
では、そろそろ今回のブログの本題である「運営」について深堀りしていきたいのですが......

横山
そもそも、"ソーシャルゲームの運営"という仕事がどんなものなのか、簡単に説明しておきましょうか。

及川
では僕から。お客様に見えやすい部分で例をあげると、ゲーム内で開催されるイベントやキャンペーンなどを企画したりしていました。

横山
そして、それらを「お客様へ向けてどうプロモーションするか?」を計画するのも僕達の仕事です。ゲーム内やSNSで、こういった画像を見たことがあるかと思います。

b07_lv01_05.jpgb07_lv01_06.jpgリィンカネのゲーム内で開催される、イベントやキャンペーンを告知する画像

及川
ゲームに直接関わる企画だけでなく、キャラクター達やリィンカネ自体をもっと知ってもらうためのプロモーションもたくさん実施させてもらいました。

b07_lv01_07.jpgリィンカネ公式Xで実際された「#リィンラボ」企画。リィンカネキャラ達の知られざるプロフィールなども紹介されていた

和田
リィンカネの運営当時、こういった企画や告知が毎日のように行われていましたよね。かなり多忙そうな業務に思えます。

横山
色々と決めることが多いので、当時は週3日ほど打ち合わせをしていました。こうやって及川さんと話していると、あの頃を思い出すなあ......(笑)

及川
週5日のうち3日が打ち合わせで、残り2日は打ち合わせに向けた資料を作成する日々でしたよね(笑)

和田
今回は、そんな戦友ともいえる及川さんと横山さんのお話を、どんどん伺っていきたいと思います。

Lv2.施策の初手をどう打つか?

和田
......とは言ったものの、「運営」のお仕事については僕も詳しくないので、どういう話題から始めたらいいでしょう?

及川
ううん......運営に関わる指標は「DAU(1日のアクティブユーザー数)」など色々あるのですが、今回はもっととっつきやすい話のほうがいいですよね。

横山
では、リィンカネの運営中にやった施策について、企画時のエピソードを話していくのがよさそうですね。

和田
それなら読者の皆さまにも伝わりやすいと思います。

横山
ではまず、僕がイベントなどを企画する上で意識していたのは、"お客様の数を維持する"ことでした。

及川
ゲーム運営では、それが一番重要な部分ですよね。

横山
具体的な企画でいうと、リィンカネのリリース1周年のときに、「220連無料ガチャ」という施策を行いました。

b07_lv02_01.jpgリィンカネ1周年のプロモーション施策として、220連の無料ガチャが引けるという大胆な企画を行った

及川
無料ガチャ施策としてはかなり思い切った数なんですが、結果的にとても好評でしたね。

横山
はい。しばらくリィンカネから離れてしまっていたお客様にも戻ってきていただき、ゲーム内で盛り上がってもらえたんじゃないかな、と思います。

和田
ガチャでお気に入りのコスチュームが引けると、ゲームを続けるモチベーションにもなりますからね。いい企画だったなと感じますね。

横山
ありがとうございます。及川さんのほうはどうですかね?

及川
僕としては、リィンカネ特有の運営方法かもしれませんが......"既存のコンテンツを活かす"ことを意識していました。

横山
既存のコンテンツというのは、一例として「討伐戦」とかのことですね。

b07_lv02_02.jpg「討伐戦」は、鹿の姿をした巨大なボスの討伐に挑む常設コンテンツだった

和田
企画にあわせてコンテンツを増やさず、あえて既存のコンテンツを活かした理由がありそうですね。

及川
そうなんです。順を追ってお話ししていきますね。

和田
お願いします。

及川
まず、一般的なソーシャルゲームは、一度離れてしまったお客様はもう戻らないことがほとんどなんです。

和田
運営する側としては、厳しい現実ですね......

及川
ですがリィンカネに限っては、メインシナリオの「新章」をアップデートするたびに一定数のお客様が戻ってきてくださる、珍しいタイプのタイトルでした。

横山
それだけお客様がシナリオを楽しみにしてくださっていた証拠ですね。

新章リリース時は、PVやキャンペーンなど盛り上げるための様々な施策が行われた

及川
だからこそ、新章の開発に注力するためにも、それ以外の開発にコストを割かないよう工夫して企画を考えていましたね。

和田
既存コンテンツを活かしながらの企画は、制約が多くて大変そうですが......?

及川
お察しの通り、大変でした(笑)
でも、悩んだかいもあってお客様に楽しんでいただけた企画も色々生まれたと思っています。

横山
例えば、「最強決定戦」も成果のあった企画のひとつです。

b07_lv02_03.jpg「最強決定戦」施策のプロモーション画像

及川
先ほどお話に出た、リィンカネの常設コンテンツである「討伐戦」を活用して、より高いスコアを目指してランキングを競うイベントでした。

和田
僕自身も、いちプレイヤーとして楽しませていただきました。

横山
そう言ってもらえるのはありがたいですね(笑)

及川
本来なら、ゲーム上に「ランキング機能」を実装するべきなのでしょうが......リィンカネではランキングの公表をSNSで行うことで代替しました。

横山
SNSを使うことで、よりお客様の反応を直に見れるメリットもありましたし、多くの反応があったことで第2回、第3回と施策を続けることができましたよね。

及川
ちなみに、「最強決定戦」のアイデアは横山さんからもらったんです(笑)

横山
え、そうでしたっけ?(笑)
そういえば......お客様がリィンカネの攻略動画を配信サイトにアップしてくださっているのがうれしくて、「大会みたいにしたら面白いのでは?」と話した記憶はあります。

和田
SNSを通じた企画でいうと、リィンカネでは毎月28日(ニーアの日)に、アンケートを取ってアイテムを配布していましたよね。

b07_lv02_04.jpgリィンカネ公式Xでアンケートを行い、結果に応じたアイテムがプレイヤーの皆さまへ配布されていた

横山
ありましたね。毎月アンケートのネタを考えるのは意外と大変なんですが......お客様の反応がうれしくて、次も頑張って考えようと思えました(笑)

和田
思い返してみると、リィンカネでは他にも様々なSNS施策が行われていたように感じます。プレゼントキャンペーンも度々行われていたような?

及川
実は......ちょうどプレゼントキャンペーンに関する"お宝"資料をもってきていまして(笑)

和田
是非見せていただきたいです(笑)

及川
ママの目がデザインされた「ママランドセル」というものがありまして。こんなデザインだったんですが......

b07_lv02_05.jpg「ママランドセル」のデザインイメージ資料

横山
可愛らしいですね。でも、運営中にこれをお客様へプレゼントした記憶はないですよ?

及川
そうなんです......結局、協力してくれる業者さんが見つからず、泣く泣く断念することになりました。

和田
幻のママランドセル......ブログでお披露目できてよかったです。

Lv3.見えない未来の読み合い

和田
ゲーム内のイベントやキャンペーンの企画だけでなく、SNS運営やグッズ制作と、「運営」のお仕事が多岐にわたることがわかりました。

及川
改めて言われると、本当に色々やっていましたね。

和田
当然ながら、それら施策を思いついた順に実施すればいいわけではないですよね。計画はどのようにされていたんでしょうか?

横山
では、ここからはゲームの運営について、もう少し踏み込んだ話をしていけたらと思います。

及川
運営計画がわかる資料として、我々が「運営カレンダー」と呼んでいたものをお見せしようと思うのですが......

b07_lv03_01.jpg運営計画がまとめられた「運営カレンダー」と呼ばれる資料......?

和田
えっと......ボカシが入っていて読めないですね?

及川
はい......この場でお見せできればと準備をしていたのですが、事情があって掲載NGになってしまいました......

和田
なるほど......開発者ブログという体裁上、いつかはNG資料が出てくるものと思っていましたが、ついに。

横山
読者の皆さまにはすみませんが、様々な運営施策がガントチャート的に並んでいる雰囲気だけでも感じてもらえたらと思います。

和田
画像に映っている範囲も、「運営カレンダー」のほんの一部という感じでしょうか? かなり膨大な情報が詰まった資料に思えます。

横山
そうですね。簡単に説明すると、イベント・キャンペーン・ガチャなどの項目が縦にずらっと並んでいまして。

及川
それらの項目毎に、施策が何月何日から始まっていつ終わるのか、横にラインが引いてあります。

和田
よーくラインを見てみると......ひとつの施策が終わったあと、隙間なく別の施策が始まっているように見えますね。

横山
おっしゃる通りで、この「運営カレンダー」で運営計画を俯瞰しながら、常に施策がある状態を維持するようにしていました。

和田
それはやはり、"お客様の数を維持する"ためということですよね。

及川
そうですね。遊べるコンテンツが1日でもなくなると、お客様がリィンカネから離れてしまうかもしれないので。

横山
ただ、施策を途切れさせないように計画するのは本当に大変で......(笑)

及川
大変でしたね......(笑)

横山
単に次々と施策を打てばいいわけでなく、お客様に喜ばれる施策を考え続けなければならない難しさがありました。

和田
ちなみに、喜ばれる施策の傾向とかはあるんでしょうか?

横山
シナリオ系のもの以外だと......やっぱりジェムや、ガチャを引ける「ガチャチケット」がもらえるキャンペーンになりますかね(笑)

和田
まあ、そうですよね......(笑)

b07_lv03_02.jpg記念やイベントにあわせ、ジェムのプレゼント施策が度々行われていた

及川
配布キャンペーンのあと、お客様のジェム所持量が一気に増えた状態は、運営側の視点だとけっこうヒヤヒヤするんですよ。

横山
ジェムを使ってもらえるよう色々手は打つのですが、結局アニバーサリーなどの特別なイベントじゃないと、たくさん使ってもらえないんですよね(笑)

及川
もう少し具体的にお話すると、お正月のある1月からリィンカネ周年である2月までの間は、比較的ジェムの消費が活発になるんです。

横山
逆に、その前の12月はジェム所有量が増える傾向にありましたね。

及川
「運営カレンダー」を直接お見せできないので、今簡単にイメージ図を作ってみたのですが......

b07_lv03_03.jpg即席でつくられた「運営カレンダー」のイメージ(※クリックで拡大してご覧ください)

和田
ありがとうございます。12月というと、ちょうどクリスマスガチャのシーズンでしたね。あまりジェムが使われない時期というのは意外でした。

横山
なのでクリスマスには、魅力的なコスチュームとそれを紹介するPVを用意したりして、イベントを盛り上げるようにしました。

クリスマスのムード満載のPV。魅力的なクリスマス・コスチュームばかりで、ガチャを引きたくなってしまうはず......!?

及川
ガチャに登場するキャラコスチュームの3Dモデルは、リリースされる1年以上前から企画して制作を進めないといけないので、より綿密な計画が必要になりますね。

和田
1年以上ですか......その精度で計画が求められるとすると、中には実現できない企画もあったんじゃないでしょうか?

横山
いいところに気が付きましたね(笑)
実は、それに関する"お宝"資料を持ってきているんですよ。

和田
さっそく見せていただきたいです(笑)

横山
こちらの動画なんですが......開発内では「外伝ストーリー」と呼んでいたコンテンツです。

怪物レヴァニアの「外伝」ストーリーの試作モック。朗読がついた人形劇のような雰囲気のシナリオコンテンツになる予定だった

和田
ありましたね。個人的にもリリースを楽しみにしていた企画だったのですが、実現は叶いませんでした。

横山
リィンカネに求められているシナリオコンテンツを増やそうと試みたのですが......施策モックの段階まで進んだものの、頓挫する形になってしまいました。

及川
メインシナリオの開発とコストが合わなかったのもありますし、「ボイス」が必要なシナリオは運営計画に合わせるのが非常に難しいんです。

和田
声優さんをスタジオにお呼びして収録......と工程が複雑になりますからね。

横山
ですが、この「外伝」の構想がのちに実装される「シークレットストーリー」に繋がっていくんです。

b07_lv03_04.jpg運営中に追加された「シークレットストーリー」。キャラクター達の追加シナリオを読むことができた

及川
「シークレットストーリー」はボイスがつかないシナリオコンテンツだったので、コスト的にも運営計画的にも落とし込みやすかったんです。

和田
テキストが主の企画になったことで実装できる数も増えますし、より多くのキャラクター達のエピソードを語れるので、シナリオ側としてもうれしい企画でしたね。

Lv4.運営を振り返る最後の一手

和田
さて、色々な話題がでたところですが、そろそろ対談も締めに入っていきたいと思います。

横山
えっと、まだ時間があるならちょっといいですかね? 実はもうひとつ"お宝"を持ってきてまして(笑)

和田
さすがは横山プロデューサー......まだ隠し玉を持っていたとは。

横山
最後に僕から「純金ママ」の話をしておこうかと。

及川
あー! 運営初期の頃に作りましたね(笑)
リィンカネの事前登録100万人突破記念で作った、世界にひとつしかない激レアアイテムです。

横山
そうなんです。当時で100万円相当の価値があったはずですよ。

b07_lv04_01.jpg世界でたったひとつの「純金ママ」。レア度も価値もピカイチ

和田
まさに幻のアイテム......まさか、今日はその純金ママを?

横山
いえ、今日持ってきたのは純金ママの「型」です(笑)

b07_lv04_02.jpg金・銀・銅のバリエーションが可愛らしい「純金ママ」の型。リィンカネ公式資料集の背表紙の厚みと同じくらいのサイズ感

及川
これはこれでレアものですね。

和田
本物の金でなくていいので、置物として普通にほしいです......

横山
そうでしょう?(笑)
ということで、僕からは以上でした。

及川
僕も横山さんに負けじといいでしょうか?

和田
及川さんまで隠し玉を......!? もちろんどうぞ。

及川
それでは、僕からはこの写真を......(笑)

b07_lv04_03.jpg 手書きで紙に書かれたラフなイラスト。このキャラクターは......!

和田
えっと、この写真は一体?

及川
リィンカネ開発チームの懇親会で行われた、「チーム対抗・お絵描き伝言ゲーム大会」の写真です。

和田
これもある意味、他では見ることができないお宝資料ですね......

横山
お題は「冒険家アルゴー」ですか? 見事に伝言できているように思えます。

及川
はい。他にも、伝言に失敗してまったく別のキャラになったチームもあったりと、なかなか盛り上がりました(笑)

b07_lv04_04.jpgお絵描き伝言ゲームに失敗したチームのイラスト。お題であるアルゴーから、ポッドのようなイラストに......?

横山
ソーシャルゲームの運営をしていると、数カ月に一度は"山場"がやってきますから......チームのみんなを労うためにも、こういった催しは大切だったりしますよね。

和田
山場というと、メインストーリーの新章がリリースされる日は、特に忙しかったんじゃないでしょうか?

及川
そうですね。新章公開日は、開発チーム全員で朝5時に会社に集まって......公開時間である11時までの間、ひたすら新章をプレイしてチェックしていました。

横山
もちろん事前準備は万端にして当日を迎えますが、実際のリリース環境で初めてわかるバグなんかもあるんですよね。

及川
どの章にも何かしらの不具合は出るもので、公開時間までに修正しないといけません。当日は常に緊張感との戦いでしたね。

和田
アプリボットの皆さんの連携によって、リィンカネが支えられていたことを改めて感じられるエピソードですね。

横山
さて、今日持ってきた"お宝"は出し切ったので、そろそろ対談も終わりでしょうか?

和田
そうなります。これまで黙っていたのですが、お二人に次々と"お宝"を出していただいたおかげで、対談時間を1時間ほどオーバーしていまして......(笑)

横山
これは失礼(笑)

及川
久々にリィンカネの運営の頃を思い返せて、話が止まらなくなりました(笑)

和田
いえいえ。運営のウラ話も色々聞けて、ボリュームのある記事になるんじゃないかと思います(笑)

横山
では、我々から読者の皆さまへご挨拶をして締めていけばいいですかね?

和田
よろしくお願いします。

及川
まずは僕から。
お客様の反応を見られるところがゲーム運営の醍醐味であり、モチベーションになっていました。今もあちこちで見かけるリィンカネのお客様のコメントや反応は、日々を頑張る糧になっています。
このブログの感想も、是非「#リィンカネブログ」で投稿いただけるとうれしいです!

横山
僕は今でも、SNSでリィンカネ関連のポストを拝見させてもらっています。運営が終了していて、新しい話題がなくても、リィンカネのことを投稿してくれていて、すごくうれしく思います。
終わってしまったタイトルですが、これからもリィンカネを忘れないでいただけるような取り組みができればと思っています!

和田
ありがとうございました。僕もお二人と同じ想いです。
それでは、次回更新もどうぞお楽しみに......!

及川横山
ありがとうございました~!

<おわり>

2025年09月29日

第6回:ボイスのハナシ

Lv1.ボイスのお仕事?

和田
こんにちは。NieRシナリオ班のリーダーをしています、和田です。
今回のテーマは「ボイス」ということで、『NieR Re[in]carnation(以下、リィンカネ)』の開発トークをしていきたいと思います。
そして、今回のゲストは......

土井
皆さんこんにちは。NieRシナリオ班の土井です。よろしくお願いします!

和田
よろしくお願いします。本題に入る前に、土井さんご自身のお話も伺っていきましょう。

土井
分かりました。僕はもともと役者をしていて、シナリオ班に加入しました。初期メンバーである和田さん達の少し後、"1.5期生"みたいな時期でしたね。

和田
役者から、ゲームシナリオライターへ......少し変わった経歴に思えますね?

土井
意外といるみたいですよ(笑)
自分は役者をしつつ、脚本も書いたりしていたので、それが加入のきっかけになりました。

和田
リィンカネにおいてもそれらの経験を活かして、シナリオライティングはもちろん、演出周りのお仕事もお願いしていましたよね。

土井
はい。ブログの「第4回:BGMのハナシ」に登場していた柳川さんが担当される前は、一時期、僕もBGMの演出付けをしたり......

和田
そして何より、今回のテーマである「ボイス」に関わる業務も色々関わっていただいていました。

土井
リィンカネでは、キャラクターのセリフや朗読に声優さんが声を当ててくれていたので、重要な役割です。

『ヒトと世界の物語』のプロローグ。リィンカネでは、声優さんの声によってキャラクター達に命が吹き込まれていた

和田
声優さんの声を録る「ボイス収録」が一番に思い浮かぶと思いますが、ゲーム開発におけるボイスの業務は他にも色々あるんですよね。

土井
読者の皆さんには馴染みがない方も多いと思いますので......今回は知ってもらうためのクイズを持ってきました!

和田
さすが土井さん、エンタメ力がありますね......さっそくお願いします。

土井
次の2つの動画についている"朗読のボイス"をよ~く聴き比べてみてください。修正前と後で、どんな調整がされたでしょうか?

『太陽と月の物語』1章のゲームシーン。ボイスに関する修正が行われる前のもの

同様のゲームシーンに対して、ボイスに関する修正が行われた後のもの

和田
皆さんお分かりになりましたかね? 土井さんに正解を答えてもらいましょう。

土井
では、正解は......


............


......


...


ボイスの"間"が変わった、でした!

和田
修正前の動画では、朗読と朗読のあいだに、長めの間がとられていてテンポが悪くなっていますね。

土井
修正後の動画では、その間をだいたい0.5~1秒くらいに縮めてもらっています。リィンカネ全体で、それくらいの間になるよう調整されているんですよ。

和田
地味な調整に思えるかもしれませんが、朗読のテンポが悪いと画面タップで読み飛ばされることが多くなるので。ゲーム体験を作るうえで重要なんです。

土井
はい! ということで、ボイスの業務の一端を知ってもらえたかなと思います。

和田
ありがとうございます。今回は、そんなボイスに関わる開発のあれこれをお話しできればと思っています。

土井
よろしくお願いします!

Lv2.台本に書くべきこと

和田
今回は、ボイス業務の中心である「ボイス収録」を中心に、開発トークをしていけたらなと思います。

土井
分かりました。

和田
リィンカネ運営中の収録では、現場でのボイスディレクション的な仕事を、僕達2人が中心になってやっていました。

土井
なので、ボイス収録の開発トークは色々できそうですが......何からお話しましょう?

和田
そうですね、シナリオに一番近い「台本」のことから話しましょうか。

土井
はい! では、リィンカネのボイス収録に使われた台本のファイルを見てみましょう。

b06_lv02_01.jpg

『少女と怪物の物語』の収録に使われた台本ファイル

和田
これはメインシナリオの台本ですね。声優さんに読み上げていただくセリフと、話者となるキャラクター名の文字が、読みやすいように構成されています。

土井
小さく書かれている「◎」で始まる文字が、「ト書き」と呼ばれるものですね。

和田
収録時にゲーム画面をすべてお見せできる訳ではないので、ゲーム的にどういう状況か? キャラはどんな気持ちか? などのイメージをト書きに示します。

土井
この台本で収録されたゲームシーンも観てみましょう。

実際に収録された『少女と怪物の物語』のゲームシーン

和田
それまで文字だけだったセリフに、声優さんの声が入るとグッとくるものがあります。

土井
本当にそうですよね!
あと......やっぱり、レヴァニアの声に怪物的なエフェクトがかかっているのはもったいないですよね(笑)

和田
確かに......

土井
エフェクトがかけられる前の声優さんのお声を知っているからこそ、メインシナリオ上でも素のボイスを聴ければと常々思ってました(笑)

和田
もともとレヴァニアの素のボイスを聴けるのは、キャラクタークエストで解放できるサブストーリーくらいでしたからね。

b06_lv02_02.jpg

『少女と怪物の物語』の主人公レヴァニアのキャラストーリー台本

レヴァニアのキャラストーリーのゲームシーン

土井
リィンカネのメインシナリオでも、終盤少しだけ素のボイスが流れるシーンはありましたが......個人的にはもっと聴きたかったです。

和田
ところで、例で出した台本のト書きには、声優さんにセリフをどんな気持ちで読んでほしいかはあまり書いていませんよね。

土井
ト書きをどのくらい書くかは、作品によってまちまちな印象があります。

和田
リィンカネは比較的、ト書きは必要最低限のことしか書いてないですね。もちろん、具体的なイメージを書いた方がいい場合もありますが......

土井
ト書きを細かく書きすぎると、声優さんの演技がその指定に縛られてしまうことにもなりかねないんです。

和田
役者として活躍されていた土井さんも、ある程度演技を自由にやらせてもらえた方が楽しかったりするのでしょうか?

土井
そうですね。ト書きが少ない方が、声優さんが書き手の想像を超えてくれる。声優さんの解釈に委ねた方がいいものになると、僕は思っています。

和田
その考えは僕も一緒ですね。リィンカネでは声優さんに委ねたからこそ生まれた、良いシーンがたくさんあったと思っています。

土井
はい!
それとは別に......ト書きがほしいと思うのは、アケハのシナリオとかでしょうか(笑)

b06_lv02_03.jpg

和装の暗殺者アケハのキャラストーリー台本

アケハのキャラストーリーのゲームシーン

和田
◎のト書きに、読み仮名の指定がたくさん......アケハは和風で少し古風なテキストが味ですからね......

土井
そこはアケハのライターさんがこだわっていた部分でもあるので(笑)
こういうト書きでの指定は、雰囲気作りのためにも大切だなと思います!

Lv3.収録は失敗できない

和田
ここまで台本ファイルを見てきましたが、実際にその台本が使われた「ボイス収録」のことをお話していきましょう。

土井
収録は、収録スタジオさんや専門のスタッフさんも関わりますし、声優さんにもお越しいただいて......と、多くの人が関わるんです。

和田
台本通りにセリフを読んでいただいて終わり、とはいかないこともありますし......

土井
多くの人が関わるからこそ、やり直しや失敗が許されない現場でもありますね。

和田
ゲームシーンを観ながら、一例をお話していきましょうか。

『ヒトと世界の物語』のプロローグにあたるムービーシーン

土井
何人かのキャラクターが一堂に会するシーンですね。

和田
ゲーム画面に表示されていないセリフも多いのですが、ある程度は台本に書かれています。

b06_lv03_01.jpg

プロローグシーンの台本ファイル。《》で囲まれたセリフはゲーム画面上に表示しないことを示す記号

土井
ですけど、このムービー中に必要なセリフすべてを台本に書ききることはできないんですよね。

和田
はい。キャラ達が走った時の息遣いなど、映像を観ながら声優さんの「アドリブ」にお任せする部分も出てきます。

土井
初めに言った通りボイス収録はやり直しがしにくいので、臨機応変さが求められる収録はかなり慎重にしないといけません。

和田
ムービーに映っているキャラの口の動きと、息演技やセリフがあっていない......みたいなことが起きないよう、細心の注意を払って収録に挑みましたね。

土井
上で例にあげたシーンは、登場するキャラの数も多いので大変でしたが......なんとか形になったのではないかと思います!

和田
無事に終わって何よりでした......

土井
ブログ的には、収録で失敗してしまったエピソードとかも、お話したりした方がいいですかね......?(笑)

和田
そうですね......では、次のシーンを観ていただきましょうか。

『太陽と月の物語』のバトルシーン

土井
魔女サリュと獣人プリエのバトルシーンですね。お互いの悲痛なボイスが入った、悲しい戦いです......

和田
もともとこのバトルでは、キャラ同士の掛け合いが入っていませんでした。

土井
あれ、そうだったんですね。

和田
2人の見せ場となるバトルということもあり、セリフがあった方がより良くなるだろうと、急遽ですが追加させてもらいました。

土井
なるほどですね。でも、それが失敗談なんですか?

和田
実は......セリフを追加しようと思い立った時には、既にプリエのボイス収録が終わってしまっていたんですよ。

土井
あ......でも、だったらプリエのボイスはどこから?

和田
プリエの『武器の記憶』のバトルとはまったく関係のないシーンなんですが、念のため撮っていたものの演出的に使わなかったボイスがあったんです。

b06_lv03_02.jpg

獣人プリエの『武器の記憶』で、画面いっぱいに文字が敷き詰められる演出があった。ボイスを収録したものの使わない方針になっていた

土井
そういうことでしたか! よく見ると、バトルで流れていたセリフと同じ文字がシーンに紛れていますね。

和田
収録はやり直しがしにくいからこそ、使うか検討が必要なものがあれば一応撮っておく......という選択をすることもあります。

土井
ここで撮っていたボイスを組み合わせて、掛け合いを構成したんですね。

和田
そういうことです。
ボイスは収録して終わりではなく、組み込まれる過程で完成度を高められるのも、ゲーム開発の醍醐味かもしれません。

Lv4.ボイスの方針

土井
ボイスに関わるお仕事について色々話しましたが......読者の皆さんにも伝わったでしょうか。

和田
文章では伝えにくい内容ですからね......でも、伝わったと願っています。

土井
そうだとうれしいですね。

和田
さて、記事の締めに入っていこうと思いますが、何か言い忘れたこととかはありますか?

土井
では......普通に話すだけでは面白くないので、最後にもう一問クイズを出してみようと思います(笑)

和田
是非お願いします(笑)

土井
リィンカネでは、声優さんに様々な朗読シナリオを読んでいただきましたが、次のうち、特にどれに気を付けてもらっていたでしょうか?

①ゆったりと読んでもらうこと。
②暗い雰囲気で読んでもらうこと。
③聴き取りやすくハキハキ読んでもらうこと。

和田
分かる人は、すぐ分かるかもしれませんね......

土井
選択肢が簡単すぎましたか?(笑)

和田
答えは......②ですね。

土井
正解です! 収録が始まる前に、"暗い雰囲気で"とお願いしていました。

和田
シナリオがハッピーな内容でも、最終的にはどのキャラも不幸になるのだから......と、僕も毎回説明していた覚えがあります。

土井
そもそもリィンカネには、ハッピーな内容のシナリオが少ないですし。強いて挙げるとするなら、これとかでしょうか......

リィンカネのハーフアニバーサリーイベントで公開されたシナリオ『記録:言祝の庭』

和田
明るすぎない、絶妙な声演技ですよね。

土井
こういったボイス収録の方針は、開発初期にクリエイティブディレクターのヨコオさんが定めたものなんですよね?

和田
はい。作品全体でボイスの雰囲気が統一されているのは、そういった前提ルールのもとでボイスディレクションが行われていたからです。

土井
ボイスによって、作品の雰囲気作りに貢献できていたらいいなと思いますね。

和田
さて、今度こそ最後になりますが......土井さんから、読者の方々に一言お願いします。

土井
はい!
声優さんが声を吹き込むことで、知れるキャラの一面が確かにあって、その瞬間に立ち会えた時自分は、綻んだような歪んだような奇妙な顔をしていたように思います。
皆さんにも、そんな瞬間をお届けするお手伝いができていたら......これほどうれしいことはありません。リィンカネを愛していただき、ありがとうございます!

和田
ありがとうございました。
では、また次回更新でお会いしましょう......!

<おわり>

2025年08月28日

第5回:メインシナリオのハナシ

Lv1.NieRの呪い?

和田
こんにちは。NieRシナリオ班のリーダーをしています、和田です。
この開発者ブログでは、『NieR Re[in]carnation(以下、リィンカネ)』の開発トークをお楽しみいただければと思います。
まずはゲストをご紹介したいのですが、なんと今回は"あの方"が......

???
あーあー、声ちゃんと届いてますかね?

和田
お、ちょうど通話が繋がりました。はい、声聞こえてますよ。

松川
よかった......!
皆さんこんにちは。リィンカネのディレクターを務めた、株式会社アプリボットの松川です。

和田
本日はよろしくお願いします。
松川さんは本当にご多忙で、なかなか予定が合わなかったのですが......今回ビデオ通話を使った「オンライン対談」という形で時間をつくっていただけました。

松川
久しぶりに直接お会いしたかったのですが、すみません。

和田
いえいえ、とんでもないです。

松川
ちなみに、和田さんのビデオ通話の背景に映ってるのって、皆さんのチームが引っ越したスクエニ渋谷オフィスですかね?

和田
そうですよ。リィンカネの開発打ち合わせで松川さんが来社していた頃は、まだ新宿オフィスにいましたね。

松川
ですね。もはや懐かしいです。

和田
念のため......後ろを人が通ったりするので、「リィンカネのバーチャル背景にしておきますね。

b05_lv01_01.jpg

リィンカネ公式Xで配布されている、オンライン通話用のバーチャル背景。他にもいくつかのデザインが配布されている

松川
背景にママが映って雰囲気出てきましたね(笑)
今日は久しぶりにリィンカネの話ができるので、楽しみにしてきました。

和田
ありがとうございます。今回はリィンカネの中核コンテンツともいえる、「メインシナリオ」の開発をテーマにお話を伺っていこうかなと思っています。

松川
はい、なんでも聞いちゃってください。

和田
でもその前に......せっかくなので松川さんご本人のことを伺っていきましょう。だいぶご無沙汰ですが、松川さんは最近も色々ゲームを作られているんですか?

松川
そうですね。ただ......リィンカネ以降、作るものについて悩みがあって。

和田
悩みというと?

松川
すっかり"彩度の低いもの"が好みになってしまったんですよ。他の作品のディレクションをしていても、「これ、明度や彩度が高すぎるかな?」と感覚がバグってしまって(笑)

和田
それはもう、NieRの呪いですね......

松川
呪い......そうかもしれません(笑)

和田
松川さんは、度々「NieRっぽさ」について言及されてましたけど、元々シリーズのファンだったんでしょうか?

松川
はい。実は『NieR:Automata(以下、オートマタ)』が大好きで。リィンカネ初期のイベントクエストでオートマタとのコラボした時も、僕がプロットに関わっていました。

和田
ディレクター自ら書かれていたんですね。

松川
オートマタの世界観なら、自分も書けるかなと思って内緒で挑戦してみました(笑)

b05_lv01_02.jpg

リィンカネとオートマタがコラボした際の、イベントクエストのスチルアート

和田
オートマタからNieRシリーズを知って、リィンカネを遊んでくれたお客様も多そうですからね。2Bや9Sの新規エピソードに触れられて、喜ばれたんじゃないかと思います。

松川
ありがとうございます。オートマタをプレイして感じた感動を、リィンカネでも伝えられていたらいいなと思います。

和田
伝わっていると信じています。では、今日の本題へ入っていきましょうか。

松川
はい。今日は、リィンカネ発足時の企画段階の資料をいくつか持ってきました。

和田
一体、どんなものが出てくるんでしょう......

松川
まずはこれ、覚えてますかね?

b05_lv01_03.jpg

企画段階のタイトル画面。『NieR Re[in]carnation』というタイトルに決まる前の、仮タイトルが載っている

和田
あ~懐かしいですね。確かに、開発初期は「ニーア グランギニョール」という仮タイトルがつけられていました。

松川
こんな感じで、当時の開発資料を色々用意してきたので、見ながらお話できればと。

和田
期待が膨らみますね。

Lv2.「発明」するしかない!

和田
では、まずは企画段階のお話からお伺いできればと思います。

松川
よろしくお願いします。

和田
リィンカネは、『檻』や『武器の記憶』といった独特な世界観のうえでメインシナリオが描かれますが......ゼロから作りあげることに様々な苦労があったのではないでしょうか。

松川
そうですね。最初にイメージを固めるために、モックを組むことから始めました。

和田
ゲームの見た目や遊びの方向性がわかるような、試作品を作ってみるわけですね。

松川
はい。リィンカネキャラのモデルが作られる前なので、オートマタで使用されていたキャラのモデルを使ってモックを作っていました。
実際に、映像を観ていただくのがわかりやすいと思います。

リィンカネの初期モック。2Bがキャラモデルとして使用されている貴重な映像

和田
企画会議で初めて観た時に、感動した記憶があります。当時のスマホは今ほどスペックが高くなかったのに、その中でオートマタのキャラがそのまま動くんだな、と。

松川
このモックの映像からも、3Dマップの『檻』と2Dマップの『武器の記憶』を交互に体験するゲームなんだということが伝わると思います。

和田
ですね。そういったゲームサイクルやアートの方向性を決めるのが、モックの意義なんでしょうか?

松川
それもあるのですが......モック段階では、クリエイティブディレクターであるヨコオさんと一緒に、本制作に関わる別のことも決めていました。

和田
そうなんですね? なんだろう?

松川
モックを使って固めたのは、キャラの「移動速度」なんです。

和田
移動速度とは......意外でした。

松川
それによってゲームの"背景が移り変わる秒数"が変わるんです。背景をどれだけ作るかは、開発コストにも影響が大きいんですよ。

和田
なるほど。キャラが速く走れるほど、背景がどんどん移り変わって、たくさんの背景を作る必要がでてくる......ということですね。

松川
はい。そうやってゲームの基盤を設計したら、ようやく世界観やアートを考えていく段階になります。例えば『檻』の場合だと......このアートとか、覚えてますかね?

b05_lv02_01.jpg

b05_lv02_02.jpg

『檻』のビジュアルを決めていくために使われた、初期のコンセプトアート

和田
ありましたありました。それなら......僕はこのアートが印象に残っていたりします。

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『檻』のビジュアルを決めていくために使われた、初期のコンセプトアートの別案

松川
懐かしい(笑)
『檻』が今の形になるまでに、何通りものアートを描いてもらって試していました。

和田
『檻』はビジュアルの美しさが特徴的ですが、リィンカネのような運営タイトルだと、継続的に3Dの背景を作っていくのは大変そうですよね。

松川
その通りです......(笑)

和田
効率よく制作するための工夫としては、どういったことをされていたんでしょう?

松川
最終的に『檻』では、石造りの"パーツを組み合わせる"形に落ち着きました。

b05_lv02_04.jpg

最終的な『檻』のコンセプトアート

和田
石造りの塔が立ち並ぶという世界観は、そういったコスト面のことも考慮されていたんですね。

松川
コスト面も考えてアートを決めることは、ヨコオさんからも強く要望があった部分でした。

和田
でも、結局美しさへのこだわりが捨てられず、毎章ユニークで作ってしまっていた......ということはよく運営中に耳に入ってきました(笑)

松川
多少の流用は効くのですが......今回は、その話は置いておきましょう......(笑)

和田
さて、ここまでで『檻』の制作における様々な試行錯誤が垣間見れました。『武器の記憶』も同じように大変だったのではないでしょうか?

松川
そうなんですよ。『武器の記憶』は参考にできる作品や資料が本当に少なくて。ほぼ「発明」するような気持ちで作り上げました。

b05_lv02_05.jpg

『武器の記憶』のゲーム画面(開発当時のもの)。2Dによって表現されることから、開発では「絵本」パートという名称で呼ばれていた

和田
「朗読劇」の形にすることは最初から決まっていたんですよね。

松川
はい。なので、そのテイストに合うような『武器の記憶』のアートもたくさん描いてもらっていました。例えば、こんなアートとか......

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『武器の記憶』の背景アートイメージ

和田
童話が語られる絵本のような雰囲気のアートですね。あとは、こういったリアルテイストのアートも描かれていましたよね。

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『武器の記憶』の背景アートイメージ。別案

松川
今見返すと、いろんな方向性が試され――、苦労――――跡が見え――ね(笑)

和田
あれ、松川さん? ちょっとビデオ通話の音声が途切れてます?

松川
え......あ、声届いてます?

和田
大丈夫みたいです。正常に戻りました。

松川
よかったです。僕達が画像や動画を映しすぎて、ネット回線が圧迫されたのかもしれませんね(笑)

和田
そのおかげで、貴重な開発資料がたくさん載ったブログ記事になると思います(笑)

松川
開発初期のモックやアートは懐かしさ半分、恥ずかしさ半分ですけど。こうやって日の目を見るのはうれしいですね。

Lv3.見えない工夫を詰め込んで

和田
こうした試行錯誤を経て、『檻』や『武器の記憶』が生まれていき......その上にメインシナリオが乗せられていくわけですね。

松川
開発的にも、ようやくといった感じです。

和田
リィンカネは「少女と怪物の物語」「太陽と月の物語」「ヒトと世界の物語」という3つのメインシナリオから構成されるので、それぞれ順を追って話していければと思います。

松川
では、まずは「少女と怪物の物語」ですね。

和田
最初にシナリオを読まれた時、どう感じられましたか?

松川
そうですね......やっぱり「考える余白」や「余白の美しさ」がありますよね。受け取った瞬間に、ヨコオさんのシナリオだと思えました。

和田
読み手によって受け取り方が変わる物語ですよね。

松川
そうですね。救われたのか、救われていないのか......その判断をお客様に委ねている感じ。そんなところが初めて読んだ瞬間に好きになりました。

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「少女と怪物の物語」のエンディングムービーの制作過程。喪失の中にも希望が見えるようなラストシーンだった

和田
「少女と怪物の物語」だと、主人公であるフィオの体調が悪くなった時、画面にノイズが入る演出は印象的でした。あれは、オートマタのオマージュ的な演出だったりしますか?

松川
そうですね(笑)
オートマタファンとして、リィンカネでも取り入れたかった演出のひとつです。

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弱っていくフィオに呼応するように、画面や音声にノイズが混じっていく演出がなされた(ゲーム画面は開発当時のもの)

和田
随所に、松川さんのこだわりが詰まっているということですね。

松川
こだわり自体は、かなりありましたね(笑)

和田
続いて、「太陽と月の物語」の話に移りますが......ここで『檻』の見た目が大きく変わりましたよね。

松川
はい。少女と怪物の物語では『檻』の特徴付けとして「布」が使われていたのですが、それが「鉄」に置き換わりました。

和田
なかなか大きな変更に思えますが、開発としても苦労されたのではないでしょうか。

松川
そうですね......鉄になったことで、スマホ上で処理しきれるかのテストが必要になりました。

和田
鉄は、構造物としても複雑になりそうですしね。

松川
モデルも複雑になりますし、鉄の反射や質感を入れると描画負荷が大きくなってしまいます。どう工夫して実現させるか、相当考えましたね。

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『檻』に鉄の要素を組み合わせるための試験的なモックイメージ

和田
具体的にはどんな工夫を?

松川
遊んでいて気付かれた方がいるかはわかりませんが......実は「少女と怪物の物語」の時より、カメラが"寄り"になっているんですよ。

和田
カメラが寄ることで、画面内に映るものが減る......ということでしょうか?

松川
まさしく。鉄の要素が加わって描画処理が重くなったぶん、一度に画面に映る範囲を狭くすることで処理負荷を下げた......という感じです。

和田
そんな見えない工夫があったとは。

松川
そういう"落としどころ"を決めることも、ディレクターの役割ですね。カメラが寄り引きすることで結果的にメリハリが出て、見映えも良くなりました。

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最終的な「太陽と月の物語」の『檻』のコンセプトアート。石造りの塔と、鉄の要素が見事にマッチしている

和田
貴重なお話をありがとうございます。では、最後に「ヒトと世界の物語」にまつわるエピソードもお伺いしていきましょう。

松川
そのシナリオの開発は、本当に色々なことがありましたね......

和田
そうですね......

松川
............

和田
............

松川
すみません、色々思い出して黙っちゃいました(笑)

和田
同じくです(笑)
「ヒトと世界の物語」の開発で最初にヨコオさんから受けたオーダーが、『檻』の構造をがらっと変えるものでしたよね。

松川
『檻』が上下対称になったりして、キャラが天井を歩いたりするんです。最初に聞いた時は「無理では?」と思いました(笑)

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「ヒトと世界の物語」のゲームシーン。天地が逆さまになり、天井を歩いて進むステージがあった

和田
リィンカネの運営もしながら、同時にゲームの基盤も作り直すような開発だったんじゃないでしょうか......

松川
そうですね......ただ、ヨコオさんが書かれたメインシナリオのプロットを読んで、「無理でも作りきろう」と思うことができたんです。

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「ヒトと世界の物語」における、全体の骨子を決めるプロット

和田
「ヒトと世界の物語」では、オートマタなどのNieRシリーズとリィンカネの繋がりが明かされましたよね。僕達シナリオ班も、読んでテンションが上がっていました(笑)

松川
アプリボットの開発チームでもそうです。みんなで読み合って、「ついに!」と盛り上がってましたよ(笑)

和田
あとは、「ヒトと世界の物語」のシナリオ制作では、珍しくヨコオさんが悩んでいる姿を見ることができたのが個人的に新鮮でした。

松川
開発中の会議でも、即決されることが多い方なので。それは本当に珍しいですね。

和田
リィンカネ全体のエンディングを描く物語なので、様々な考えや想いがあったんだと思います。最終的に、しっかり最後を飾るにふさわしい物語になっていましたね。

松川
そのおかげで、我々アプリボットでも「これは僕らが作ったんだ」と胸を張れる体験にしようと、全員が力を注ぐことができました。いいものになったと自信を持って言えますね。

和田
はい。それは、シナリオ班一同も自信を持って言えます。

Lv4.一番大事な話?

和田
開発中の貴重なお話をたくさん聞かせていただきました。

松川
僕も色々と話せてうれしかったです。

和田
では、最後になりますが......サービスが終了した今、開発を振り返ってみての話を伺えたらと思います。

松川
そうですね......リィンカネは、自分がゼロから関わった初めてのタイトルだったんです。とても多くのことを吸収して、成長させていただきました。

和田
思い入れもひとしおなわけですね。

松川
そうですね。特にフィオは、娘のようにも感じていたりします。

和田
娘、ですか。

松川
はい。今回お見せしたモックの映像では、オートマタのキャラを使っていましたが......初めてリィンカネキャラとして『檻』を歩かせたのが、フィオだったんです。

和田
そうでしたね。当時の動画が残っていたので、映してみましょう。

「少女と怪物の物語」の開発初期のモック。制作途中のフィオのモデルで、『檻』を歩くことができた

松川
懐かしいなぁ......開発中は彼女がゲーム内で成長していく感覚がありましたね。

和田
松川さんは企画初期からフィオの背中をずっと見守ってきた、ということですね。

松川
そうなりますね。リリース時には、「いい舞台で世に出られたね」と、親心みたいな気持ちにもなったりしました(笑)

和田
ブログの締めとして、とてもいいお話を聞くことができました(笑)
では、最後にブログ読者の皆さまへメッセージをお願いできればと思います。

松川
はい。今もこうしてブログを読みに来てくださるお客様は、リィンカネを本当に好きでいてくださる方だと思っています。
開発者として至らない部分もあったかと思いますが、記憶に残るゲームをお届けできたなら、開発者冥利に尽きます。本当にありがとうございました。

和田
本当にありがとうございました。

松川
僕自身、今までもNieRが大好きでずっと助けられてきたので......これからもヨコオさんに恩返しできることがあればやりたいなと思っています。任命されたら、ですけどね(笑)

和田
その想いはきっと届くと思いますよ。

松川
そうだといいですね(笑)

和田
さて......今回オンライン対談として確保していた枠より、少しまだ時間がありますね。松川さんからもう一言、今だから言えることとかがあれば是非お願いします。

松川
じゃあ、せっかくなので――。リィンカネは、僕が――――まで――、――最初から――――ます。

和田
ん? ちょっと、急にまた通信が途切れ途切れに? もう一度いいでしょうか?

松川
あれ? おかしいですね。えっと、今振り返っ――、――――――秘密――――の――――

和田
あっ......本格的に聞こえなくなってきた? 松川さん?

松川
――、――――!

和田
すみません、声が聞こえなくてもう一度お願..................あ、通話が切れました。

最後に何やら気になることを仰っていたようにも思いますが......もしかして、これが松川さんの言う「考える余白」......?
さすがリィンカネのディレクター、ご自身でNieRらしさを体現して去っていかれました。

えっと......ということで、対談を締めていくのですが......
皆さま、また次回をお楽しみに......!

<おわり>

2025年07月28日

第4回:BGMのハナシ

Lv1.盛り上げ隊長?

柳川
みなさんお待ちかねぇ!
リィンカネの開発秘話が赤裸々に語られるブログ「リィンカネの作り方」。第4回のゲストはこのワタクシ......NieRチームの盛り上げ隊長こと、柳川です!

今回はこのテーマだっ! ドゥルルルルルルル......ダン!
「ビィィィィイ! ズィィィィィイ! エェェェェェンムッ!!」

和田
........................はい。
ということで、皆さまこんにちは。NieRシナリオ班のリーダーをしています和田です。今回のテーマは「BGM」ということでやっていきたいと思います。

柳川
あっれれーおかしいぞー。盛り上げていこうと思ったんですけど、和田さんは平常運転なんですか?

和田
まあ、熱量のある柳川さんと冷めた和田で、ちょうどいい温度感になるんじゃないかと思いまして(笑)

柳川
なるほど! ......って、どんな理屈ですか?(笑)

和田
では気を取り直して。今回のゲストは、NieRシナリオ班と一緒に仕事をしている柳川さんです。

柳川
よろしくお願いします!

和田
柳川さんはリィンカネでBGMに関わる仕事を担当されていたので、今回のゲストにお呼びしました。

柳川
僕がリィンカネに参画したのは「太陽と月の物語」の途中からですね。BGMを発注したり、BGMでゲームに演出付けを行う仕事をしていました。

和田
柳川さんは、前職のスキルを活かしてスクエニに転職してこられたんですよね。

柳川
はい。僕はもともと映像畑の人間だったんです。

和田
映像の仕事というと、ミュージックビデオの制作とかですかね?

柳川
まさにそうです! 「GEMS COMPANY」というスクエニがプロデュースするアイドルユニットのミュージックビデオに関わっていた縁で、和田さん達と一緒に仕事をすることになりました。

「GEMS COMPANY」が歌う「灰ト祈リ(アニメ『NieR:Automata Ver1.1a』第2クールエンディングテーマ)」のミュージックビデオ。これも柳川さんが総監督として関わっている

和田
ミュージックビデオの制作から、ゲームのBGMの演出......音楽に関わる仕事には昔から興味があったんでしょうか?

柳川
そうですね......自分の両親が演劇人でして、それが理由かはわからないんですが、昔の映画のサントラとかが家にいっぱいあったんですよ。

和田
そうだったんですね、ご両親のことは初耳です。

柳川
で、なぜか、日曜日の朝は古い映画のサントラを爆音で流しながら起こされたり、音楽に合わせてノリノリで朝食が並べられていったり。そんなちょっと変わった家だったんですよね。

和田
楽しそうなご家庭だ......

柳川
はい(笑)
そんなわけで、音楽は生活の中で身近でした。結果、BGMを扱う感性が自然と身についていたのかもしれません。

和田
BGMに限らず、柳川さんは多才な方なので、仮歌入れとか仮アテレコとか、なんでもお願いしちゃっていました。

Nintendo Switch™「NieR:Automata The End of YoRHa Edition」の発売時に行われた、ママの実況プレイ企画。チーム内でのイメージ共有のために、柳川さんがママ役となって仮ボイスを入れていた

柳川
自称「スクエニのフリー素材」ですから。犯罪以外の仕事はなんでもやりますよ!

和田
すごい自称だ......では、このブログでもBGMについて赤裸々に語っていただこうと思います。

柳川
お任せください!

Lv2.音をハメたい!

和田
今回は主に、"BGMを使ったシナリオの演出方法"について話していきたいと思います。

柳川
わかりました! 開発では「BGMアサイン」と呼ばれていた工程ですね。

和田
シナリオのシーンにあったBGMを選んで、どのタイミングで鳴らすか......という演出を指定するんですよね。

柳川
はい。リィンカネには数多くの素敵なBGMがありますが、それをシナリオが書かれたファイル上で指定するんです。例えばこんなふうに......

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物語の流れやキャラのセリフが書かれたシナリオファイルの一部。BGMの指定もこのファイル内に記載されている

柳川
行頭が「♪♪♪」になっている灰色の箇所で、BGMの演出を指定しています。

和田
書かれているのは、「BGMをスタートするタイミング」と「BGMの開発名」ですね?

柳川
はい。発売されたサウンドトラックに入っている楽曲の名前とは違うので、どの曲かわかりにくいと思いますが(笑)

和田
では、このシナリオが実際にどんな演出になったのか、動画で観てみましょう。

「太陽と月の物語」の主人公である女子高校生の陽那が、『檻』に置かれたピアノを発見するシーン。動画の17秒くらいからBGMが始まっている(動画は開発中のもの)

柳川
指定通り、陽那がピアノに触れた時にBGMが始まっていますね。

和田
流れるBGMもピアノが入った穏やかな曲で、陽那の心情にマッチしたいい演出です。

柳川
シーンの雰囲気やキャラの心情にあったBGMアサインは、映像のお仕事でも心がけていました。一方リィンカネでは、ゲームならではの難しさがありましたね。

和田
難しさというと?

柳川
映像作品と違って、ゲームはプレイヤーさん毎のプレイの仕方で"体験が変わる"という点です。

和田
立ち止まって景色を楽しみながら遊ぶ方もいれば、とくにかく先に進むプレイスタイルの方もいますからね。

柳川
はい。だからプレイヤーさんが自由に操作できるシーンでは、BGMの指定がしにくいんですよ。

和田
先ほどの動画のようなイベント中だったり、道中のドアを通ったら......みたいな明確な「トリガー」をもとにBGMを制御することになるわけですね。

柳川
そういった制約の中で、BGMアサインをするのは新鮮でした。難しくもやりがいはありましたね。

和田
逆に、リィンカネにはムービーで表現されたシーンもありましたが、そこは映像のように自由なBGMアサインができたと?

柳川
まさにそうです! 特に「太陽と月の物語」の祭壇で流れるムービーは、うまくBGMがハマったなと印象に残っています。

「太陽と月の物語」のターニングポイントとなるムービー。主人公である高校生達が、旅の目的を一時的に果たすシーン(動画は開発中のもの)

和田
魔法陣が展開して映像が激しくなると同時に、BGMも盛り上がっていて......改めて観てもお見事なアサインです。

柳川
BGMに合わせてムービーが作られたと思えるくらいにぴったりハマって、気持ちよかったです(笑)

Lv3.レイヤーって?

柳川
ここからは、BGMアサインの応用編ということで、楽曲の「レイヤー」のお話もできればと思います。

和田
楽曲の「レイヤー」というのは、あまり聞きなれない言葉かもしれません。

柳川
実はリィンカネのBGMの多くは、1曲をいくつかのレイヤーに別けても聴けるようになっているんです。
例えば、「Madoromi - 微睡」という曲なら......

楽曲「Madoromi - 微睡」のレイヤー構成

レイヤー 説明
コーラスレイヤー 女性コーラスが入ったレイヤー。
ベースレイヤー コーラス以外の、いくつかの楽器の音色が入ったレイヤー。


和田

表だけだとわかりにくいですかね。実際にこの曲が流れるシーンも見てみましょう。

楽曲「Madoromi - 微睡」がアサインされたゲームシーン。動画の11秒くらいからレイヤーが追加されている(動画は開発中のもの)

柳川
どうでしょう? 歌姫マリーが涙を流すタイミングから、女性コーラスのレイヤーがインしていることがわかると思います。

和田
その涙が彼女にとってどんな意味合いを持つのか、語られずとも伝わってくる気がしますね。

柳川
他にも「Normandy - ノルマンディー」という曲は3つのレイヤーに分かれていて、使い方によって雰囲気がまったく違う曲にもなるんですよ。

楽曲「Normandy - ノルマンディー」のレイヤー構成

レイヤー 説明
ボーカルレイヤー 女性ボーカルが入ったレイヤー。
オケレイヤー オーケストラの音色が入ったレイヤー。
ハープレイヤー ハープのメロディが入ったレイヤー。


和田
この曲に関しては、もともと異なる雰囲気の2つのシーンで使い分けたくて、発注していた楽曲でもあります。

柳川
まずは、「ボーカルスレイヤー」と「オケレイヤー」を合わせて使ったシーンを観てみましょう。

楽曲「Normandy - ノルマンディー」がアサインされたライブシーン。舞台「ヨルハ」の同名の楽曲が原曲となっている(動画は開発中のもの)

和田
次は「ボーカルレイヤー」と「ハープレイヤー」が使われたシーンをどうぞ。

楽曲「Normandy - ノルマンディー」がアサインされた街中ライブシーン(動画は開発中のもの)

柳川
2つのシーンを見比べると、BGMの印象がまったく違うことがわかりますね!

和田
盛り上がったり、静かで心地よかったり......レイヤーの切り替えだけでこれほど変わるとは。

柳川
印象がガラッと変わってしまうぶん、レイヤーは使い方を間違えないようにしないといけません。

和田
リィンカネにはそれなりの曲数があると思いますが、使い分けるコツはあるんでしょうか?

柳川
うーん。とりあえず、BGMアサインの仕事でまず最初にやることは、同じ曲をレイヤー別に何百回も聴いて頭に叩き込むことですね。

和田
凄い回数ですね。それがBGMを魅力的にアサインする秘訣......

柳川
若干、力業の感じもありますけどね(笑)

和田
さて、ここまでBGMアサインのテクニックをいくつか伺うことができましたが、それらを組み合わせて演出されたシーンはありますかね?

柳川
そうですねぇ。例えば、このシナリオとか?

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「太陽と月の物語」4章のシナリオが書かれたファイルの一部

和田
「♪♪♪」の行を見ると、レイヤーの指定やフェードアウトの秒数など、細かな演出指定がされていますね。こちらのシーンを実際に見てみましょう。

電脳世界で2人の少女が対峙するシーン(動画は開発中のもの)

柳川
動画とシナリオファイルを見比べてみると、その通りにBGMが変化していることがわかってもらえると思います。

和田
普段ゲームをする中で、BGMの変化まで気にして遊ぶ方はあまりいなさそうですが、実は細かな制御がされているんですよね。

柳川
ちなみに。途中からインしているレイヤーは、二人の間に流れる膨大な量のデータをイメージしていたりします。

和田
なるほど。物語的な意味も考えながら演出するとなると、改めて大変は仕事だと思えてきますね......

柳川
とんでもないです。もともと映像の仕事をしていた自分からすると、BGMアサインはご褒美みたいな仕事なんですよ。

和田
ご褒美ってことは、楽しい作業なんですね?

柳川
はい(笑)
和田さんもやりたかったんじゃないです?

和田
その気持ちはあります。ただ、"このシーンはこの曲で"ってところは、自分からBGMの希望も出させてもらいましたし、全体的に納得のアサインになっていると思います。

柳川
BGMアサイン担当も、シナリオ担当も納得できていれば何よりですね!

Lv4.突然始まるトップ3

和田
「BGMアサイン」の工程で、如何にシナリオが演出されていたかがわかりましたね。

柳川
お客様の記憶に残るような演出になっていたらいいなと、思っています。

和田
そう願っています。
ただ今となっては、今回紹介したような演出を実際にゲームで確かめられないのが悔やまれますね......

柳川
......おいおいおい和田さァん? そんな辛気臭い顔してどうしたんダイ!?

和田
!?

柳川
それではここで! リィンカネのBGMに触れられる特別コーナー「推し曲トップ3」が始まるぜェ! まずはワタクシ柳川のトップ3を発表だ! ダダァーン!

柳川の好きなリィンカネBGMトップ3

1位 「Inori - 祈リ」
メロディーラインがエモエモのエモ!
2位 「Hengai - 辺涯」
アドレナリンがドバドバのドバ!
3位 「Shūu - 驟雨」
曲を聴くだけで、情景が脳内にブワァブワァのブワァ!


和田
では便乗して、和田のトップ3も載せておきます......!

和田の好きなリィンカネBGMトップ3

1位 「Kusabi - 楔」
いつかオケコンで聴けることを祈って。
2位 「Sabigoe - 寂声」
オープニングに使われた曲で、様々な思い出が蘇る......
3位 「Komorebi - 木漏レ日」
落ち着いて想いを馳せられます。


柳川

ふぅ~。今回のブログ、やりきった! 今日はもう退勤してもいいですよね(笑)

和田
まったくもう......柳川さんという楽曲に、急に「盛り上げ隊長レイヤー」がインされてびっくりしましたよ。なんて。

柳川
......さぁ、というわけで、とりあえずブログの締めに入りますか!

和田
あれ。上手いこと言おうとして滑ったことに対しては、盛り上げてくれないんですか。

柳川
盛り上げはメリハリが大事なので、メリ(減り)と判断してスルースキルを発動させていただきました(笑)

和田
何も言い返せない......

柳川
でもこうやって、ブログを通してリィンカネのことを思い出せるのはいいですね。

和田
はい。それにNieRシリーズ15周年では、他にもリィンカネに触れられるイベントが盛り沢山ですから。

柳川
今回のテーマでもある、"NieRの音楽"に触れられるオーケストラコンサート『NieR:Orchestra Concert re:12024 [ the end of data ]』も開催されますし。

和田
NieRシリーズ初の展覧会『NieR 15th Anniversary EXHIBITION 消セナイ記録』も見逃せないです。リィンカネの展示もありますので。

柳川
展覧会の入り口近くでは、僕が編集した映像も見ることができます。展示と合わせて楽しんで頂けたら幸いです!

和田
ということで。今年はまだまだリィンカネを忘れることはできなさそうですね。

柳川
いとありがたし!

和田
では、柳川さんから最後に一言お願いできればと思います。

柳川
はい! 音楽は感性に大きく関わる部分なので、人によって受け取り方は多種多様です。そんな中、なるべく多くのNieRファンの皆様に喜んでもらえるよう意識して、BGMアサインを頑張りました! 楽しんでもらえていたらうれしいです!

和田
さて、今回はBGMによるシナリオの演出方法を中心に語ってきました。
また次回更新もお楽しみに......!

<おわり>