NieR Blog

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2025年05月28日

第2回:キャラクターのハナシ

Lv1.お体大丈夫ですか?

和田
皆さんこんにちは、和田です。
「NieR Re[in]carnation(以下、リィンカネ)」の開発者ブログ「リィンカネの作り方」第2回を始めようと思います。ではさっそく、ゲストの方をお呼びしましょう。

松尾
こんにちは。松尾です......

和田
松尾さんは、リィンカネの第1部である「少女と怪物の物語」のリードシナリオライターとして、シナリオ全体をまとめてくれていました。

松尾
よろしくお願いします......今はシナリオのお仕事からは一旦離れて、別の形でNieRシリーズに関わっています。

和田
あれ......松尾さん、ちょっと元気ないです? 風の噂で聞いたんですが、転んで膝を骨折されたとか。

松尾
そうなんですよ。履いていた登山靴の靴紐に足をひっかけてしまって。たはは(笑)

和田
笑いごとではないと思いますが......大変な時にゲストに呼んでしまってすみません。

松尾
イエ、大丈夫ですよ。もともとお医者さんにも「綺麗に割れてるね」と言われていて、だいぶ治ってきてますからね。

和田
ご無理なさらず......
それにしても、リィンカネ初期にアルゴーのお話を書かれていた松尾さんが登山靴で怪我をするなんて、少しだけ運命を感じますね。

松尾
僕とアルゴーは運命共同体なのかもしれません。

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アルゴーは、山登りを生きがいとする屈強な男。彼の登山靴には靴紐は......ない

和田
今回は「キャラクター」がテーマなので、せっかくですし、まずはアルゴーの話から始めていきましょうか。

松尾
そうしましょう。
僕の中のアルゴーのイメージは、寡黙な「昭和のガンコ親父」なんです。でもいつの間にか、お客様の間で「面白おじさん」みたいな扱いになっていました。

和田
面白おじさん......(笑) 
アルゴーがそういう扱われ方をされたのって、何がきっかけだったんでしょう?

松尾
どうだったかな? 定かではないですが、"水着"が出たイベントでしょうか。

和田
ああ......リィンカネがリリースされて初めての夏イベントで、壮年男性の水着コスチュームが配布されたあの時ですね。

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2021年に開催された夏のイベントで、満を期してリリースされたアルゴーの水着コスチューム。他のデザインパターンも検討されていた

松尾
ハイ。しかも、そのイベントで公開されたストーリーの主役が別の女性キャラで。アルゴーはその背景アートにちらっと出てくるだけなんです。

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アルゴーが小さく映りこんだスチルアート。様々な画面比率のデバイスで表示できるよう、アートは大きめに描かれている

和田
色々と訳があってそうなりましたが、ネタにされても仕方ないと言えばそう......

松尾
まあ、もともとアルゴーは崖から転げ落ちても頑なに山頂を目指すようなキャラなので、面白おじさんとして扱われる素質はありそうですけど。

和田
否定できないです。

松尾
なので、僕も骨折なんかに負けずに、張り切ってこの対談に臨みたいと思います!

和田
そこまでアルゴーを踏襲しなくても......ともかく、無理せずよろしくお願いします。

Lv2.大事なことは最後に決める

松尾
今回テーマが「キャラクター」ということで、何を話したものかと考えたんですが。リィンカネにおいては、「キャラクターの設定は一番最後に決める」ということをお話ししようかと。

和田
順番で言うと、初めに描かれたキャラクターのアートに対して、シナリオを考えて、最後にキャラ設定が決まる......という感じですね。

松尾
ハイ。僕自身、最初めちゃくちゃ驚いたんですけど。

和田
僕も、キャラ設定をある程度先に決めるのかなと思ってました。

松尾
最初からガチガチに設定を固めてしまうと、シナリオの自由度を阻むから面白くならない。「大事なことは最後に決める」......というのが、ヨコオさんの教えでしたね。

和田
ちょうどよさそうな資料があったので、これを見ながら具体的に話していきましょう。

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企画初期にキャラクターの方向性を検討するためのラフアート。王子リオン(一番右)や、義肢の女フレンリーゼ(一番左)の姿も描かれている

松尾
これって、企画初期の「荒野の三人組」のアートでしたっけ。

【荒野の三人組】
リィンカネのストーリーにおける、冒頭1~3章に登場する3人のキャラクターの総称。西部開拓時代を思わせる荒野を舞台に、彼らの生き様が描かれた。

和田
そうですね。とはいえこの頃は、3人のシナリオが荒野の世界で展開されるとは、まったく決まっていませんでした。

松尾
デザイナーさんが残しているメモを読むと、もともとは「NieR:Automata」に絡んだイメージがあったみたいですね。

和田
ポッドも描かれていますしね。このアートがそのまま採用されていたら、今とは別のシナリオになっていたでしょうね。

松尾
そうそう、僕もちょうど「少女と怪物の物語」のシナリオを作っていた頃の画像を持ってきましたよ。どの順番でキャラを登場させるかとか、ペアをどう組み合わせるかとかをヨコオさんと話をしていた時のものです。

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暫定的に決められた「少女と怪物の物語」におけるキャラクターの登場順番。最終的なシナリオの順とは異なっている

和田
ペイントソフトで即席で作った感満載ですね。開発資料のすべてが綺麗に整理されているわけではないことが、よくわかります......

松尾
まあ、開発資料はそんなものですよ。

和田
色々と気になる点があると思いますが......順番に話していきますか?

松尾
そうしましょう。

和田
とりあえず......「変な形状」って?(笑)

松尾
そこ、やっぱり気になりますよねぇ(笑)
「山男」というのはアルゴーの開発名称なんですけど、「変な形状」のペアがいたらどうなっていたんでしょう。

和田
少なくとも、1人で黙々と山に挑んだりはしていなかったかもしれませんね......

松尾
それでもアルゴーには、山に挑んでいてほしい気持ちがあります。

和田
(笑)
あとは、"1"と書かれたところに、先ほど言っていた「荒野の三人組」の最終的なデザインが配置されていますね。

松尾
その3人が組み合わせになることがこの段階で決まって。この後シナリオが作られる過程で、荒野の世界だったり、王子と従者みたいなキャラ同士の関係性が決まっていくわけです。

和田
さて、そうしてキャラアートや登場順が決まった後、ライターさんが自由にシナリオを考えていくのですが......その観点で印象的だったエピソードってありますか?

松尾
そうだなぁ......例えば、主人公のレヴァニアが棲む「怪物の世界」がよくわからなかった話とか。

和田
よくわからなかったというと?

松尾
怪物世界のコンセプトアートが既に用意されていたので、それに合わせてシナリオを考えていくのですが......

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よくわからない世界のイメージを固めるための「怪物の世界」のコンセプトアート。中心にはレヴァニアが描かれている

和田
あの世界、何も設定がなかったと思うのでシナリオの自由度が高そうですね。

松尾
自由度が高すぎて、逆に何を書いていいのかわからないパターンです(笑)

和田
そういうこと(笑)

松尾
まあ、当時は担当ライターさんも色々悩んでいましたけど。その後何度か怪物の世界を描くストーリーもあったので、今はいくつか決まっている設定もありますよ。

和田
「大事なことは最後に決める」ですね。

松尾
ハイ。

和田
でもそれなら、もう少しリィンカネで怪物世界を描く機会があればよかったんですけどね......

松尾
NieRシリーズ20周年で、また小説を書けるといいかもしれませんよ? シリーズ主人公達が一人も登場せず、様々な怪物達が登場する怪物世界の話を。

和田
マニアックすぎてボツになると思います......

Lv3.キャラマスター

和田
さて、アートからシナリオができて、ようやくキャラクターの設定が作られていくフェイズに入ります。

松尾
長い道のりですね。

和田
作られた設定は「キャラクター設定シート」と呼ばれる資料にまとめています。例えば、「リオン」の設定シートは......

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リオンのキャラクター設定シートの一部。キャラクターの性格など、様々な項目がまとめられている(※クリックで拡大してご覧ください)

松尾
ここまで設定が決められていると、キャラがどんな人物像かしっかりイメージできますねぇ。

和田
ですね。あとはリィンカネのシナリオを担当したNieRシナリオ班には、「キャラマスター制度」みたいなものがあって。

松尾
キャラ毎に、そのキャラのことを知り尽くしている担当者を決めるんですよね。

和田
はい。基本的に「キャラマスター」が、そのキャラのシナリオ原案を考えたり、設定を決めたりしています。

松尾
アルゴーのキャラマスターはもともと僕でした。当然、2Bだったり10Hなど既存のシリーズキャラは、しっかりヨコオさんを通る確認フローになっていたりします。

和田
とはいえ、やむなく他のライターさんに一部執筆を頼むケースはでてきてしまうんです。

松尾
お仕事ですからね。

和田
だから、キャラ設定シートに大事なことをまとめておいて、誰がシナリオを書いても齟齬がないようにする仕組みというわけです。

松尾
キャラの細かい心情のニュアンスとかは、ライターさんが変わるとどうしても変わってしまいますもんね。

和田
そこが難しいところです。すごく大切な部分でもあるので。

松尾
ところで、その体制だとリィンカネキャラが勢ぞろいする「ヒトと世界の物語」は、大変だったんじゃないですか?

和田
お察しの通りです......
毎章、複数人のキャラが登場するので、シナリオが更新される度にキャラマスター全員を集めて確認したりしていました。

松尾
まさにシナリオ班総出で作ったシナリオというわけですね。

和田
です......

松尾
ちなみに和田くん的に、監修で気を付けていたエピソードは何かありますか?

和田
ええと、そうですね......ちょうど設定シートをお見せしたリオンで言うと「言葉遣い」を注意したことがありました。

松尾
リオンということは、「ヒトと世界の物語」の4章「琥珀の章」のシナリオですかね。

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「ヒトと世界の物語」の4章「琥珀の章」では、王子リオンと、盗賊の少年ユディルが共に『檻』を旅した。画像は開発中のゲーム画面

和田
ですです。その章では、リオンが同年代の少年キャラと一緒に旅をするんですが......セリフが書かれたテキストの初稿だと、リオンがかなりフランクな喋り方になっていました。

松尾
ううむ......同年代の少年同士の旅ですし、そういう喋り方で書いてしまう気持ちもわかりますけど。

和田
ただ、リオンの設定シートからは「従者であるディミスが特別で、彼に対してだけは平易な言葉遣いになる」ことが読み取れるので。そこは尊重すべきかなと。

松尾
確かに。

和田
ライターさんには申し訳ないのですが、結局リオンのセリフをすべて礼儀正しい敬語に直してもらいました。

松尾
......その話を聞いて少し気になったんですが、「ヒトと世界の物語」に登場するアルゴーは少しコミカルな印象だったかな?

和田
うーん、そうだった気もします......いがみ合う女性陣の間に突然召喚されて、唖然とするシーンとかありましたしね......

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「ヒトと世界の物語」のプロローグでは、魔女サリュと和装の女アケハが争っているど真ん中に突如アルゴーが召喚された。画像は開発中のゲーム画面

松尾
アルゴーの設定シートには、しっかり「昭和のガンコ親父」ってキャラ性が書いてあるんですけどね。ほら。

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アルゴーのキャラクター設定シートの一部。確かに、昭和のガンコ親父という記載がある(※クリックで拡大してご覧ください)

和田
え、いや、別に監修漏れというわけではないですよ? あのシーンでは少し間の抜けたアルゴーの一面を出した方が、絶対面白くなると思ったんです。
「大事なことを最後に決めた」だけです。

松尾
その言葉を、都合よく使い始めましたね......

Lv4.運命を共にする

松尾
裏設定なんですが、アルゴーはラップ好きでして。

和田
ラップ? 昭和のガンコ親父の話はどこへ行ったんですか?

松尾
アルゴーの設定シートを見ていたら思い出してしまって(笑) 
ほら、これですこれ。

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松尾さん作詞、アルゴーのような山を愛する者たちに伝わる唄。実はラップだった(※クリックで拡大してご覧ください)

和田
アルゴーの「シークレットストーリー」として実装されたフレーバーテキストですね。韻をふんでいたので妙に頭に残ってます。

松尾
ハイ。これのノリは実はラップなんです。

和田
松尾さんがライターだった時点で、アルゴーが面白おじさん扱いされるようになるのは必然だった気がしてきました......

松尾
まあ、キャラクターも人も性質は変わっていくものですから。なんなら、僕自身のキャラ性も変わりましたよ。人生後半に差し掛かり、すっかり病人キャラ扱いされてしまって。

和田
またアルゴーに合わせてきましたね?
でも、たまたま膝を痛めたってだけで、病人キャラというイメージは特にないですけど?

松尾
こないだのゴールデンウィークに子供から胃腸炎をもらって、家に籠って子供用のジュースだけをひたすら飲んでました。実は他にもあって、毎日薬をバリボリ飲んでますよ。たはは(笑)

和田
いやいやいや、本当に笑いごとではないですって......

松尾
そうこう話していたら、そろそろ時間ですかね。皆さん体は大切に......ということで。

和田
はい......松尾さん、今回はありがとうございました。
そして、読んでくれた皆さまも健やかにお過ごしください......!

松尾
今もリィンカネを愛し続けてくれるお客様がいてくださり、うれしい限りです。
ありがとうございました!

<おわり>