2025年09月29日
第6回:ボイスのハナシ
Lv1.ボイスのお仕事?
和田
こんにちは。NieRシナリオ班のリーダーをしています、和田です。
今回のテーマは「ボイス」ということで、『NieR Re[in]carnation(以下、リィンカネ)』の開発トークをしていきたいと思います。
そして、今回のゲストは......
土井
皆さんこんにちは。NieRシナリオ班の土井です。よろしくお願いします!
和田
よろしくお願いします。本題に入る前に、土井さんご自身のお話も伺っていきましょう。
土井
分かりました。僕はもともと役者をしていて、シナリオ班に加入しました。初期メンバーである和田さん達の少し後、"1.5期生"みたいな時期でしたね。
和田
役者から、ゲームシナリオライターへ......少し変わった経歴に思えますね?
土井
意外といるみたいですよ(笑)
自分は役者をしつつ、脚本も書いたりしていたので、それが加入のきっかけになりました。
和田
リィンカネにおいてもそれらの経験を活かして、シナリオライティングはもちろん、演出周りのお仕事もお願いしていましたよね。
土井
はい。ブログの「第4回:BGMのハナシ」に登場していた柳川さんが担当される前は、一時期、僕もBGMの演出付けをしたり......
和田
そして何より、今回のテーマである「ボイス」に関わる業務も色々関わっていただいていました。
土井
リィンカネでは、キャラクターのセリフや朗読に声優さんが声を当ててくれていたので、重要な役割です。
『ヒトと世界の物語』のプロローグ。リィンカネでは、声優さんの声によってキャラクター達に命が吹き込まれていた
和田
声優さんの声を録る「ボイス収録」が一番に思い浮かぶと思いますが、ゲーム開発におけるボイスの業務は他にも色々あるんですよね。
土井
読者の皆さんには馴染みがない方も多いと思いますので......今回は知ってもらうためのクイズを持ってきました!
和田
さすが土井さん、エンタメ力がありますね......さっそくお願いします。
土井
次の2つの動画についている"朗読のボイス"をよ~く聴き比べてみてください。修正前と後で、どんな調整がされたでしょうか?
『太陽と月の物語』1章のゲームシーン。ボイスに関する修正が行われる前のもの
同様のゲームシーンに対して、ボイスに関する修正が行われた後のもの
和田
皆さんお分かりになりましたかね? 土井さんに正解を答えてもらいましょう。
土井
では、正解は......
............
......
...
ボイスの"間"が変わった、でした!
和田
修正前の動画では、朗読と朗読のあいだに、長めの間がとられていてテンポが悪くなっていますね。
土井
修正後の動画では、その間をだいたい0.5~1秒くらいに縮めてもらっています。リィンカネ全体で、それくらいの間になるよう調整されているんですよ。
和田
地味な調整に思えるかもしれませんが、朗読のテンポが悪いと画面タップで読み飛ばされることが多くなるので。ゲーム体験を作るうえで重要なんです。
土井
はい! ということで、ボイスの業務の一端を知ってもらえたかなと思います。
和田
ありがとうございます。今回は、そんなボイスに関わる開発のあれこれをお話しできればと思っています。
土井
よろしくお願いします!
Lv2.台本に書くべきこと
和田
今回は、ボイス業務の中心である「ボイス収録」を中心に、開発トークをしていけたらなと思います。
土井
分かりました。
和田
リィンカネ運営中の収録では、現場でのボイスディレクション的な仕事を、僕達2人が中心になってやっていました。
土井
なので、ボイス収録の開発トークは色々できそうですが......何からお話しましょう?
和田
そうですね、シナリオに一番近い「台本」のことから話しましょうか。
土井
はい! では、リィンカネのボイス収録に使われた台本のファイルを見てみましょう。
『少女と怪物の物語』の収録に使われた台本ファイル
和田
これはメインシナリオの台本ですね。声優さんに読み上げていただくセリフと、話者となるキャラクター名の文字が、読みやすいように構成されています。
土井
小さく書かれている「◎」で始まる文字が、「ト書き」と呼ばれるものですね。
和田
収録時にゲーム画面をすべてお見せできる訳ではないので、ゲーム的にどういう状況か? キャラはどんな気持ちか? などのイメージをト書きに示します。
土井
この台本で収録されたゲームシーンも観てみましょう。
実際に収録された『少女と怪物の物語』のゲームシーン
和田
それまで文字だけだったセリフに、声優さんの声が入るとグッとくるものがあります。
土井
本当にそうですよね!
あと......やっぱり、レヴァニアの声に怪物的なエフェクトがかかっているのはもったいないですよね(笑)
和田
確かに......
土井
エフェクトがかけられる前の声優さんのお声を知っているからこそ、メインシナリオ上でも素のボイスを聴ければと常々思ってました(笑)
和田
もともとレヴァニアの素のボイスを聴けるのは、キャラクタークエストで解放できるサブストーリーくらいでしたからね。
『少女と怪物の物語』の主人公レヴァニアのキャラストーリー台本
レヴァニアのキャラストーリーのゲームシーン
土井
リィンカネのメインシナリオでも、終盤少しだけ素のボイスが流れるシーンはありましたが......個人的にはもっと聴きたかったです。
和田
ところで、例で出した台本のト書きには、声優さんにセリフをどんな気持ちで読んでほしいかはあまり書いていませんよね。
土井
ト書きをどのくらい書くかは、作品によってまちまちな印象があります。
和田
リィンカネは比較的、ト書きは必要最低限のことしか書いてないですね。もちろん、具体的なイメージを書いた方がいい場合もありますが......
土井
ト書きを細かく書きすぎると、声優さんの演技がその指定に縛られてしまうことにもなりかねないんです。
和田
役者として活躍されていた土井さんも、ある程度演技を自由にやらせてもらえた方が楽しかったりするのでしょうか?
土井
そうですね。ト書きが少ない方が、声優さんが書き手の想像を超えてくれる。声優さんの解釈に委ねた方がいいものになると、僕は思っています。
和田
その考えは僕も一緒ですね。リィンカネでは声優さんに委ねたからこそ生まれた、良いシーンがたくさんあったと思っています。
土井
はい!
それとは別に......ト書きがほしいと思うのは、アケハのシナリオとかでしょうか(笑)
和装の暗殺者アケハのキャラストーリー台本
アケハのキャラストーリーのゲームシーン
和田
◎のト書きに、読み仮名の指定がたくさん......アケハは和風で少し古風なテキストが味ですからね......
土井
そこはアケハのライターさんがこだわっていた部分でもあるので(笑)
こういうト書きでの指定は、雰囲気作りのためにも大切だなと思います!
Lv3.収録は失敗できない
和田
ここまで台本ファイルを見てきましたが、実際にその台本が使われた「ボイス収録」のことをお話していきましょう。
土井
収録は、収録スタジオさんや専門のスタッフさんも関わりますし、声優さんにもお越しいただいて......と、多くの人が関わるんです。
和田
台本通りにセリフを読んでいただいて終わり、とはいかないこともありますし......
土井
多くの人が関わるからこそ、やり直しや失敗が許されない現場でもありますね。
和田
ゲームシーンを観ながら、一例をお話していきましょうか。
『ヒトと世界の物語』のプロローグにあたるムービーシーン
土井
何人かのキャラクターが一堂に会するシーンですね。
和田
ゲーム画面に表示されていないセリフも多いのですが、ある程度は台本に書かれています。
プロローグシーンの台本ファイル。《》で囲まれたセリフはゲーム画面上に表示しないことを示す記号
土井
ですけど、このムービー中に必要なセリフすべてを台本に書ききることはできないんですよね。
和田
はい。キャラ達が走った時の息遣いなど、映像を観ながら声優さんの「アドリブ」にお任せする部分も出てきます。
土井
初めに言った通りボイス収録はやり直しがしにくいので、臨機応変さが求められる収録はかなり慎重にしないといけません。
和田
ムービーに映っているキャラの口の動きと、息演技やセリフがあっていない......みたいなことが起きないよう、細心の注意を払って収録に挑みましたね。
土井
上で例にあげたシーンは、登場するキャラの数も多いので大変でしたが......なんとか形になったのではないかと思います!
和田
無事に終わって何よりでした......
土井
ブログ的には、収録で失敗してしまったエピソードとかも、お話したりした方がいいですかね......?(笑)
和田
そうですね......では、次のシーンを観ていただきましょうか。
『太陽と月の物語』のバトルシーン
土井
魔女サリュと獣人プリエのバトルシーンですね。お互いの悲痛なボイスが入った、悲しい戦いです......
和田
もともとこのバトルでは、キャラ同士の掛け合いが入っていませんでした。
土井
あれ、そうだったんですね。
和田
2人の見せ場となるバトルということもあり、セリフがあった方がより良くなるだろうと、急遽ですが追加させてもらいました。
土井
なるほどですね。でも、それが失敗談なんですか?
和田
実は......セリフを追加しようと思い立った時には、既にプリエのボイス収録が終わってしまっていたんですよ。
土井
あ......でも、だったらプリエのボイスはどこから?
和田
プリエの『武器の記憶』のバトルとはまったく関係のないシーンなんですが、念のため撮っていたものの演出的に使わなかったボイスがあったんです。
獣人プリエの『武器の記憶』で、画面いっぱいに文字が敷き詰められる演出があった。ボイスを収録したものの使わない方針になっていた
土井
そういうことでしたか! よく見ると、バトルで流れていたセリフと同じ文字がシーンに紛れていますね。
和田
収録はやり直しがしにくいからこそ、使うか検討が必要なものがあれば一応撮っておく......という選択をすることもあります。
土井
ここで撮っていたボイスを組み合わせて、掛け合いを構成したんですね。
和田
そういうことです。
ボイスは収録して終わりではなく、組み込まれる過程で完成度を高められるのも、ゲーム開発の醍醐味かもしれません。
Lv4.ボイスの方針
土井
ボイスに関わるお仕事について色々話しましたが......読者の皆さんにも伝わったでしょうか。
和田
文章では伝えにくい内容ですからね......でも、伝わったと願っています。
土井
そうだとうれしいですね。
和田
さて、記事の締めに入っていこうと思いますが、何か言い忘れたこととかはありますか?
土井
では......普通に話すだけでは面白くないので、最後にもう一問クイズを出してみようと思います(笑)
和田
是非お願いします(笑)
土井
リィンカネでは、声優さんに様々な朗読シナリオを読んでいただきましたが、次のうち、特にどれに気を付けてもらっていたでしょうか?
①ゆったりと読んでもらうこと。
②暗い雰囲気で読んでもらうこと。
③聴き取りやすくハキハキ読んでもらうこと。
和田
分かる人は、すぐ分かるかもしれませんね......
土井
選択肢が簡単すぎましたか?(笑)
和田
答えは......②ですね。
土井
正解です! 収録が始まる前に、"暗い雰囲気で"とお願いしていました。
和田
シナリオがハッピーな内容でも、最終的にはどのキャラも不幸になるのだから......と、僕も毎回説明していた覚えがあります。
土井
そもそもリィンカネには、ハッピーな内容のシナリオが少ないですし。強いて挙げるとするなら、これとかでしょうか......
リィンカネのハーフアニバーサリーイベントで公開されたシナリオ『記録:言祝の庭』
和田
明るすぎない、絶妙な声演技ですよね。
土井
こういったボイス収録の方針は、開発初期にクリエイティブディレクターのヨコオさんが定めたものなんですよね?
和田
はい。作品全体でボイスの雰囲気が統一されているのは、そういった前提ルールのもとでボイスディレクションが行われていたからです。
土井
ボイスによって、作品の雰囲気作りに貢献できていたらいいなと思いますね。
和田
さて、今度こそ最後になりますが......土井さんから、読者の方々に一言お願いします。
土井
はい!
声優さんが声を吹き込むことで、知れるキャラの一面が確かにあって、その瞬間に立ち会えた時自分は、綻んだような歪んだような奇妙な顔をしていたように思います。
皆さんにも、そんな瞬間をお届けするお手伝いができていたら......これほどうれしいことはありません。リィンカネを愛していただき、ありがとうございます!
和田
ありがとうございました。
では、また次回更新でお会いしましょう......!
<おわり>