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2025年06月30日

第3回:アートのハナシ

Lv1.特別ゲスト

和田
こんにちは。
「NieR Re[in]carnation(以下、リィンカネ)」シニアシナリオライターの和田です。
リィンカネの開発秘話をお届けするブログ「リィンカネの作り方」も第3回となりました。
今回のテーマは「アート」ということで、特別なゲストをご紹介します......!

ももぢる氏
こんにちは。リィンカネでキャラクターデザインを担当していました、ももぢる氏です。

和田
本日はよろしくお願いします。
そして......今回はなんと、ゲストがもうお一人いらっしゃいます。

羽山
リィンカネでコンセプトアートを担当していました、羽山です。よろしくお願いします。

和田
リィンカネを開発した株式会社アプリボットさんから、アートに携わっていたお二人をゲストとしてお迎えすることができました。

羽山
なんだか緊張しますね......しっかりお話できるよう頑張りたいと思います。

和田
あまり気を張らずで大丈夫ですよ(笑)
では、さっそくになりますが......お二人がどのようにリィンカネに関わっていたかを自己紹介を兼ねてお願いできればと思います。

ももぢる氏
まずは僕からいきますね。
僕はキャラクター衣装や武器デザインのディレクションをしたりもしていたんですが......とはいえ、「4コマの人」って言うのが一番伝わるかもしれません。

和田
4コマ漫画「#リィンカネな人々」ですね(笑)
僕達NieRシナリオ班が作ったネームを、ももぢる氏さんがイキイキとしたイラストで仕上げてくださっていました。

b03_lv01_01.jpg

リィンカネの公式Xで連載された4コマ漫画「リィンカネな人々」。完成した4コマ(左)は、ネーム(右)をもとに描かれた

ももぢる氏
連載ということで大変でもあったんですが、楽しく描かせてもらえました(笑)

和田
図形と文字だけで構成されたネームが、こんな素敵な4コマに生まれ変わるなんて......今見返しても驚きです(笑)
それでは、次は羽山さんにお話伺わせてください。

羽山
僕は主にコンセプトアートを描いていました。サービスの後半では、キャラ以外の部分でアートディレクションをしたりもしていましたね。

和田
コンセプトアートというと、ゲームの背景アートのようなものを連想しますが......羽山さんが担当されたものの一例を聞いてもいいでしょうか?

羽山
そうですね、少し変わり種かもしれませんが......僕がリィンカネに参画して初めて担当したのが「黒いカカシ」のコンセプトアートでした。

和田
カカシの話題になるのは予想外でした(笑)
ちょっとアートを探してみますね。えっと、これかな......

b03_lv01_02.jpg

黒いカカシは、リィンカネの舞台である『檻(ケージ)』に点在する像。このようなオブジェクト類もコンセプトアートが描かれデザインの方向性が決まる

羽山
それですそれです。
キャラのモチーフとシルエットだけでデザインする必要があったので、初めはコツを掴むのに苦労しましたね。

和田
リィンカネでは結構な数のカカシが登場しますしね。デザインパターンを考えるのも大変そうです。

羽山
本当にそうなんですよ。最終部の「ヒトと世界の物語」が、新キャラがたくさん出てくるシナリオだったら危なかったかもしれません......(笑)

和田
お二人ともありがとうございます。
では、それぞれ担当された範囲について、さらに深掘りしていきたいと思います。

ももぢる氏羽山
よろしくお願いします。

和田
今回はお二人の話にあわせて、アートも色々ご紹介したいですね。
それではよろしくお願いします......!

Lv2.キャラクターデザインの作り方

和田
まずはももぢる氏さんを中心に、「キャラクターデザイン」について、詳しくお話を聞いていきましょう。

ももぢる氏
わかりました。

和田
クリエイティブディレクターのヨコオさんやNieRシナリオ班の僕達は、アプリボットさんからアートを受け取って監修をさせてもらう訳ですが、それまでの工程でお話できるエピソードなどありますでしょうか?

ももぢる氏
そうですね......それなら、衣装デザインを考えるときに"仮ストーリー"を作っていたというお話をしたいと思います。

和田
仮ストーリー?

羽山
リィンカネでは主に、アートを先行して描いて、それにシナリオや設定を後付けしてもらう方式だったじゃないですか。

ももぢる氏
なので、アートを描く段階でもとっかかりがほしかったので、デザイナーが勝手にストーリーを考えて付けていたんです。

和田
なるほどです。どんなストーリーだったのか気になりますね(笑)

ももぢる氏
例えばフィオだったら、街で差別を受けていて貧乏なイメージが前提にあったので......「夢の中で、着せかえ人形のように衣装を着せられている」とったストーリーを考えていました。

b03_lv02_01.jpg

「少女と怪物の物語」の主役キャラであるフィオの衣装デザイン

和田
あれ、もしかしたら、それを担当ライターも感じ取っていたのかもしれません。

ももぢる氏
え、本当ですか?

和田
はい。フィオの衣装に付けられたフレーバーテキストに、「ユメの中の世界」「着せかえ人形」という言葉を使っていたものがありましたよ。

b03_lv02_02.jpg

コスチュームに付与されるフレーバーテキストの管理表(一部抜粋)

ももぢる氏
デザイナー側で考えたストーリーをお伝えしたことはなかったと思うので、意図が伝わっていたとしたらうれしいですね。

羽山
他にもリィンカネ特有のエピソードだったら、全体的に彩度を抑えるっていう"色の制限"もお話できそうだね?

ももぢる氏
うんうん。それならこの機に、僕の思い入れのあるアートを例に出して話してみようかな。

b03_lv02_03.jpgb03_lv02_04.jpg祭典シリーズの衣装コンセプトを決めるためのラフアート

和田
これは祭典シリーズの衣装ですね。しかも、ゲームではお披露目できなかったアートも入っているじゃないですか......!

ももぢる氏
こちらの衣装は、もともとヨーロッパ圏のお祭りだったり、サーカスの衣装をモチーフにしていました。

和田
それらの衣装は、もっと彩度が高めで派手なイメージがありますね。

ももぢる氏
はい。でもリィンカネのデザインとして落とし込む過程で、作品が持つ色彩のトンマナを守るよう彩度を抑えていったんです。

羽山
色だけでなく、衣装の「時代感・機能性を無視しないもの」というのは意識していましたよね。

和田
確かに同じ祭典シリーズの衣装だったとしても、中世な世界観のフィオと、超未来な世界観のキャラでは時代感が違っていることが感じ取れますね。

ももぢる氏
実は、衣装の素材だったり、生地の縫い目の出し方ひとつをとっても、キャラが生きた時代にあわせていたりします。

羽山
そこはとにかくこだわってアートを作っていましたよね。

和田
シナリオが後付けで、色の制限があって、キャラの時代感も混在して......と、リィンカネならではの制約で苦悩されていたということがひしひしと伝わってきました。

ももぢる氏
そうですね、開発後期にいくほど大変でした......(笑)

Lv3.コンセプトアートの作り方

和田
続いて、羽山さんを中心に「コンセプトアート」についてお話を聞いていきたいと思います。

羽山
頑張ります。

和田
羽山さんがコンセプトアートに着手するとき、初めにどういったことをされるんでしょうか?

羽山
他のアートと同じくまずはラフを用意するんですが、僕の場合は絵で描かずに3Dモデルを作ってしまうこともあります。
画像をお見せしたほうがわかりやすいと思うので......これですね。

b03_lv03_01.jpg

コンセプトアートのラフ替わりで制作された3Dマップ

和田
これは開発中「アラビアンナイト世界」と呼ばれていた世界の、王国のモデルでしょうか。ゲーム中に映らない範囲の街並みも作られていたんですね(笑)

羽山
はい。このモデルを使って、カッコよく見えるカメラアングルを見つけていくんです。そこから絵を何枚か起こして......という制作の流れですね。

b03_lv03_02.jpg

b03_lv03_03.jpg

3Dモデルをもとに製作された、砂と海の王国のコンセプトアート

和田
ところで、見せていただいたアートの場所では、ゲーム中バトルが発生していましたよね。そういったこともアート段階で考慮されているんでしょうか?

羽山
もちろんです。
コンセプトアートを描くときに、バトルをする広さがあるのか? シナリオでどんなイベントが起こるのか? みたいなことも全部考えておかないといけません。

和田
ゲームの仕様も諸々加味するとなると、かなり難易度の高い作業に思えます......

ももぢる氏
その点だと、「太陽と月の物語」の『祭壇』はかなり苦労していたよね?

羽山
あー、そうだったかも。

b03_lv03_04.jpg

「太陽と月の物語」で訪れた『祭壇』のコンセプトアート。様々なパターンが描かれ検討された

和田
確かに『祭壇』では、シナリオでの重要なイベントがいくつも起きますからね。

ももぢる氏
主人公の高校生2人が出会ったり、太陽と月が重なったり、バトルをしたり......盛り沢山ですよね。

羽山
なので、そもそもどんな『祭壇』のデザインにすれば、それらすべてを叶えることができるのか? と、かなり悩みました。

和田
羽山さんを悩ませた原因は、僕にもありそうです。これは「太陽と月の物語」で初期の頃に書いたプロットなんですが......

b03_lv03_05.jpg

「太陽と月の物語」のシナリオの骨子がまとめられたプロットの一部

ももぢる氏
『祭壇』の情報、数行しか書かれてませんね(笑)

和田
はい......初期のプロットはシナリオの流れを俯瞰するために、ロケーションの情報まで具体的に書いてはいかなったので。

羽山
結局3か月ほど悩み続けましたね(笑)

和田
3か月......

羽山
最終的には、『祭壇』の空間全体を3Dモデルで起こしてからイメージが固まり出して、今の形に収まりました。

和田
思った以上に悩ませてしまっていたようです......今度、ご馳走させてください......

羽山
いえ、お気にならさらずに(笑)

Lv4.お気に入りアート

和田
名残惜しいですが、お二人からアートの話を聞けるのも後少しとなってしまいました。

ももぢる氏
あっという間に時間が過ぎちゃいましたね。

和田
最後は軽めの話題で、お気に入りのアートなどを伺っていければと思います。

ももぢる氏
そうですね......先ほどお話した祭典シリーズの衣装もそうですが、パパと黒いママのデザインもお気に入りだったりします。

和田
それなら僕もよく覚えていますよ。パパと黒いママのラフデザインが大量に描かれているアートをいただいて、どれも可愛くて選定をすごく迷いました。

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「太陽と月の物語」のナビゲーションキャラクターである、パパ(上)と黒いママ(下)のラフアートの一部

羽山
そういえば、パパと黒いママのことも、和田さんのプロットにはほとんど情報が書かれてなかったですよね(笑)

和田
そうだと思います......「パパ」と「黒いママ」という名前しか情報がない中、デザインを作っていただいた訳ですね。本当にすみませんでしたとしか......

ももぢる氏
いえ、お気になさらずに(笑)

和田
では、羽山さんはいかがでしょう?

羽山
どれも思い出深いアートばかりで選びきれませんが、あえて挙げるなら「ヒトと世界の物語」の最終章のアートでしょうか。

和田
最終章というと、『巣箱』やラストバトルのエリアですかね。

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リィンカネにおける最終章のコンセプトアート。『巣箱』と呼ばれる巨大な建造物(上)と、ラストバトルのデジタルステージ(下)

羽山
はい。きっとこれがリィンカネ最後の仕事になるんだろうなと思っていたので、それまで培ったものをすべてつぎ込んで制作したつもりです。

ももぢる氏
ラストバトルで言うと、攻撃のモーションやエフェクトとかにも羽山さんが関わっていたよね?

羽山
はい。ラストバトルのエリア全体でデジタル感のある雰囲気を出したかったので、細かいところまで手を入れさせてもらいました。

和田
お二人をはじめとしたアートの皆さんの尽力によって、リィンカネの魅力が支えられていたんだなと再認識できますね。貴重な話をありがとうございました。

ももぢる氏
僕達もアートのことを色々お話できてよかったです(笑)

和田
それじゃあ最後に、ついでのついでで......アプリボットさんからいただいたアートの中で、僕のお気に入りもちょっと紹介させてもらってもいいでしょうか......(笑)

???
(会議室のドアをノックする音)

和田
......ん?

???
あのー、失礼しまーす。

和田
あれ、福嶋さん(NieRシナリオ班)がいらっしゃいましたね。どうしました?

福嶋
対談中にすみません......あの、和田さん。対談時間をオーバーしていて、ヨコオさんとの会議時間とっくに過ぎていますよ?

和田
............あ。
いや申し訳ないです。今すぐに行きますから。

福嶋
それが......「和田さんいないじゃん」って言いながら、帰っちゃいました。ヨコオさん。

和田
ええっ、それは困りますよ? 「今日中に絶対ヨコオさんに確認を取れ」と言われている書類が山ほどあるんですが......?

ももぢる氏
ちょっと、話し込みすぎましたね(笑)

和田
対談が長引いてしまってすみません......実はお二人と久々にお話できるのがうれしくて、内心舞い上がってしまっていました。

羽山
やっぱり、和田さん少しテンションがヘンでしたよね? 開発期間中のミーティングでは、あんまり笑わないイメージだったので......(笑)

和田
この対談が記事になったら、僕の話に「(笑)」が異様に多く付いていると思います......

ももぢる氏
(笑)
それより、ヨコオさんを追いかけなくていいんですか?

和田
まあ、このあと和田が各所からツメられるだけなので、お気になさらず(笑)

羽山
それは、ちょっとは気にしたほうがいいんじゃないでしょうか......

和田
それはさておいて......この対談を締めていきましょう。お二人から読者の皆さまへ一言お願いします。

ももぢる氏
はい。今でもこうしてリィンカネを追ってくださり、本当にありがとうございます。
開発に携わったメンバーは、今はそれぞれ別のところで戦っていますが、リィンカネでの経験やキャラクター達のことは心に残り続けています。これからもずっと皆さんと一緒に、それらの思い出を胸に過ごしていきたいなと思っています。

羽山
サービス終了が決まってからも、不思議とチームの雰囲気は全然落ちていなかったことを今でも覚えています。社内にもファンの皆さまのお声が届いていて、それらが開発メンバー達の支えになっていました。この場を借りてお礼を申し上げます。

和田
お二人とも、そして読んでくださった皆さま。
本日は、本当にありがとうございました......!

ももぢる氏羽山
ありがとうございました......!

<おわり>

追記

対談中、時間の都合でご紹介できなかった和田のお気に入りアートを掲載。

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「太陽と月の物語」ワンシーンのコンセプトアート。「NieR:Automata」に登場したあるロケーションが再現されているが、リィンカネの雰囲気にあわせて光る花「月の涙」の咲く量などが調整されている

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「太陽と月の物語」ワンシーンのコンセプトアート。主人公である男子高校生の周囲に、様々な「対立」を連想させるイメージが浮かび上がっている