なんでも簡単に手早くという方向に進歩してきた世の中ですが、ちょっと立ち止まって旧来のやり方に戻ることで、そのもの本来の魅力が十分に味わえるというのはよくあることです。
例えば、お茶。
ティーバッグで簡単にいれることはできますが、ウーロン茶なんかは、写真のようにちゃんといれると、ウーロン茶ってこんなに深くて豊かな香りがあったのかと驚かされます。
僕が近ごろ飲んでいるのは、凍頂烏龍茶というポピュラーな台湾のお茶。
茶器を毎回用意したり、専門店に茶葉を買いに行ったりと手間はかかりますが、こうして本来のやり方でいれると、ペットボトルのお茶などではあり得ない、なんともいえない爽やかな香りが溢れ、からだの緊張がふわっとほぐれてきます。
さて、昨日は「ファイナルファンタジーXI アドゥリンの魔境」のe-STORE購入特典CDのレコーディングがありました。
内容は、FFXI初のオルゴールアレンジ集!
オルゴールといえは、箱型のものがよく家庭にあったりしますが、あんな感じの可愛らしくも美しい音でFFXIの曲を奏でられればとてもいいものになりそう、ということで制作がはじまりました。
特典CDとはいえ、そこはFF。手抜きは一切ありません。まず絶対外せないのは、ちゃんとホンモノのオルゴールを鳴らしてその音を録音すること。
ここでちょっと話は変わりますが。
たしかに今の音楽機材では、実物のオルゴールがなくとも、サンプラーという機材(ソフト)を使って本物にかなり近い音を出すことは可能です。
サンプラーというものを簡単に説明すると…。
たとえばピアノの音をサンプラーでならしたいとしましょう。その場合、まずあらかじめ実際のピアノの一番下の低音のキーの音から、一番高い音まで88個のキーの音を、一音一音録音して記録しておきます。そして、それを使う際には、記録していた音を音符どおり再生させれば、もう実際の楽器がなくてもピアノの音で演奏することができますよね。これがサンプラーです。
この方式ですと、わざわざ毎回本物のピアノを用意してマイクを立てて録音して…という手間をかけなくても、一度最初に記録したピアノの音色データさえあれば、ちゃんとピアノの音が出ますし、なにしろ実際にピアノの音を録音して再生するものなので、かなり本物そっくりでリアルです。実際、僕も利用しています。ものによっては、ほとんど本物と区別できないような場合もあるのですが、それでもやはり完璧に実際の楽器と同じものを表現するのはまだまだ難しいのです。それはなぜでしょうか。
例えば、ピアノの音色でドミソの和音の音をならしたい、としましょう。
録音しておいたドとミとソの音を同時にならせばもちろん、和音になりますよね。これがサンプラーのやりかた。実際のピアノでも確かにドとミとソの音を同時に弾いて和音をならすので、出てくる音は当然サンプラーの場合の和音と全く同じ音だろう、と思われるでしょう。だって、そもそもサンプラーに記録しているドとミとソの音はもともと実物のピアノの音を録音たもので、それを再生しているのですから。
でも、ここから先が生楽器の奥の深いところ。単にドとミとソの音を同時に再生したのものと実際のピアノでドミソを弾いた場合とでは厳密には違う音になるのです。
ピアノの場合に限らず、生楽器には共鳴という作用があります。この場合、ドの音は同時に鳴らしたミとソの弦に影響を与えます。また逆に、ミとソの音によって、同時に鳴っているドの音は共鳴します。その時点ですでに、ピアノのドの音は、最初に単音でならした場合の「ド」とは異なった音になっているのです。そして、サンプラーでは共鳴によって変化したドの音は記録されていません。記録されているのはあくまで単音でならした場合のドなのです。実際の演奏では、こういうことが連続して起こります。
その差は、本当に微々たるものですが、それでもその微妙な違いを人間は聴き分けることができるのです。
話は戻って、オルゴールでも同様。
確かにサンプラーを使えば、簡単。実際のオルゴールのように、一音ごとにカードに穴を開けて音を鳴らし、響きを微調整しては何回もやり直す、といった気の遠くなるような作業をせずとも、パソコンとソフトを起動すれば5分でオルゴールの音は出ます。だけど、それだと最後の最後のところで、大事な何かが表現できずに、こぼれ落ちてしまうかもしれないない。共鳴しあって変化した「ド」の音が記録されていないように、本物でないと鳴らせない響きがあるはず…。
そんなわけで、最初のお茶の話ではないですが、やはり手間ひまかけて作った「本物」には、それだけの価値が生まれる。そんなことを期待して作ったこのCD、どんな響をきかせてくれるのか、ぜひ皆さんも味わってみてください。
特典CDは、こちらに付属します。スクウェア・エニックス e-STORE