昨日の岩崎さんのブログに続き、僕も当時のことを思い出して書いてみたいと思います。
いまでこそ、ゲームがネットにつながっているというのは当たり前の話ですが、当時はまだまだ一般的ではなく、僕も"UltimaOnline"というゲームを知識として知っているという程度でした。
ましてや、FFXIのように多人数が同時にネットにつないで同じ世界で遊ぶMMORPGというジャンルのゲームは、まだほとんどの人がどのようなものか理解すらしていないような感じでした。
そんな状況だったので、これから作ろうとするMMORPGというゲームはいったいどんなゲームなのかということを、まずはひととおり体験して理解するために、会社から1台のPCと、そのジャンルで代表的な、ある1本のゲームソフトが渡されました。サウンド代表として僕の部屋にそのPCをおいて、そのゲームをみんなで遊んでみることになったのです。
その場には、同僚の岩崎さん、山崎さん、そして唯一そのゲームの経験者である矢島さんなどが一緒にいたと記憶しています。
ゲームをインストールして、キャラクターを作ってというところまでは、いままでのゲームと変わりありませんでした。
名前やクラス(ジョブ)を決めて、さて、いよいよゲームのフィールドに降り立ちました。ぽつんと立つ自分のキャラクター。
なにか途方もなく広大な、未知の世界に突然連れてこられたようで、何をすればよいのか全く分からず呆然と立ち尽くしている自分。
すると、ふと目の前を自分とよく似たエルフのキャラクターが走り抜けていきました。そのとき、僕の後ろでいろいろ教えてくれていた矢島さんがひと言、
「いまのはPCっすね」
僕:「えっ、PCって?」
矢島さん:「ですから、どこかで誰かが操作しているキャラということです」
それをきいた瞬間の衝撃を今でも覚えています。
見知らぬだれかが、一緒にこの画面の中にいる!?
どういうことだと、周囲をうろうろ歩いてみました。
すると、今駆け抜けていった人だけでなく、他に何人もの人が、会話をしたり、モンスターのようなものと戦っているのが目に入りました。
僕:「これ全部誰かが操作しているキャラなの?」
矢島さん「そうですね。ホラ、あそこではパーティー組んで戦っていますよ」
こ、これは、とんでもないゲームだ...ゲームというか、これはもう世界そのものじゃないか...と感動で胸がいっぱいになりました。
いままでゲームといえば、たとえどんな大作であっても、すべてはあらかじめプログラムされてCDやDVDに焼きこまれて固定されたデータであり、プレーヤーが再生していくそれらは有限であるという限界がありました。(そこには、たしかに美しいグラフィックで描かれたマップや素晴らしいストーリーやがありましたが)
しかし、いま体験したゲームは全く概念からして違う。
会話をすれば、生身の人間と会話することであって、あらかじめ用意されているデータが表示されるのではない。
バトルをすれば、ヒール(ケアル)してくれるのは誰かが実際にそうしてくれてるのであって、けしてプログラムされたものではない。
これを究極のゲームといわずしてなんという!!
それくらいの勢いで、本当に興奮してしまったものです。
その日は、みんなが帰ってしまってからも終電ぎりぎりまで遊んでしまいました。
そして、気がつくとMMORPGの底なしの魅力に取りつかれてしまったのです。
...開発のお話とはちょっと関係のない話題になってしまいましたね。
ただ、それくらいの衝撃が当時はあったということです。
さて、FFXIの音楽をどうしようかとあれこれ考えていたある日、植松さんがひょっこり僕のブースに現れました。
植松:「みずたー、テトラマスターっていうゲームの音楽の仕事があるんだけど、やってもらえるかな~?」
水田:「えっ、植松さん、もう僕FFXIやるだけで本当にいっぱいいっぱいで、なんせ初めてFFやらせてもらえることになって、とてもじゃないけどそんな余裕ありまs」
植松:「えっ、やってくれる!? ありがとう! じゃ、よろしくー!!」
てなわけで、「テトラマスター」というカードゲームの音楽も同時に担当することになりました。
(ちなみにそのゲームのディレクターは、現在「キングダムハーツ」シリーズのCo.ディレクターとして活躍中の安江さん)
今から考えるとこのゲームを担当してとてもよかったと思います。
というのは、FFXIの音楽は、岩崎さんのシンセ・オペレートとタッグを組んでやることになっていたのですが、まずはこのゲームを先にやることでお互いを知るきっかけとしてよいスタートアップになったのです。(のちに野田さんも合流)
それまで僕は、作った曲をプレイステーションの内蔵音源に載せるところまで自分でやっていたので、このように作曲から先の手順を人任せにしたことはありませんでした。
もちろん岩崎さんの仕上がりに期待はしていましたが、それと同時に、ちゃんと意図したとおりの音に仕上げてもらえるのかという不安も少しはあったと思います。(今では考えられないことですが)
さて、テトラマスターではじめて岩崎さんと仕事をすることになって、まず驚いたのは機材の量!
ラックにうず高く積み上げられたシンセサイザーとサンプラーの山をみて嬉しくなってしまいました。これらを駆使して曲を仕上げてもらえるのだな、と。
実際作業が始ってみると、本当に楽しかったのを思い出します。
たとえば僕が、こんな感じの笛の音ないですかというと、「ホイきた」とばかり出てくる笛の音色の数がハンパない。
聞いたことのない笛の音を出してくれたり、こんなのはどうでしょう?では、これは?という具合にで、まさに人間検索エンジン。とても頼もしかったです。
また、そんなのどっちでもいいじゃないかというような細かいこだわりでも、いやな顔一つせず修正につきあってくれて、ありがたかったです。
扱う機材にもこだわりがありました。
ケーブルは極太の特注品。
普通のオーディオケーブルは、先端を機材のINとOUTのどちら側に差し込むかはとくに決まっておらず、どちらでもいいのですが、そのケーブルは違いました。
楽器のOUTに差し込むほうと、録音機材のINに入れるほうとが指定されているのです。
シンセの音色をデジタルデータに変換するADコンバーターという機材も、目玉が飛び出るような高額の機材を使っており、正直、PS2の内蔵音源にするにはもったいないような使い方でした。
ただ、実際の音色もよかったですし、そういう姿勢で曲を仕上げてくれる仲間にこちらも気が引き締まる思いでした。
そうやってテトラマスターができ上がるころには、お互いばっちり信頼関係も築くことができ、来るべきFFXIの曲の仕上げも安心して任せることができるようになっていました。
話はテトラマスターの話題になってしまいましたが、僕の中で当時の制作の様子はこのあたりと切っても切れず、一緒になっているのです。
「ファイナルファンタジーXI」の音楽開発は、このようにして幕を開けました。
さて、お読みいただいた皆様に感謝の気持ちをこめて「テトラマスター」の曲を1曲お届けします。
ここでしか聴くことのできない、未CD化音源です!
(写真は、当時の開発資料。手書きのカレンダーは、締め切り前のぎりぎりの状態、スケジュールで苦労している様子)
「テトラマスター」より