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2025年08月28日

第5回:メインシナリオのハナシ

Lv1.NieRの呪い?

和田
こんにちは。NieRシナリオ班のリーダーをしています、和田です。
この開発者ブログでは、『NieR Re[in]carnation(以下、リィンカネ)』の開発トークをお楽しみいただければと思います。
まずはゲストをご紹介したいのですが、なんと今回は"あの方"が......

???
あーあー、声ちゃんと届いてますかね?

和田
お、ちょうど通話が繋がりました。はい、声聞こえてますよ。

松川
よかった......!
皆さんこんにちは。リィンカネのディレクターを務めた、株式会社アプリボットの松川です。

和田
本日はよろしくお願いします。
松川さんは本当にご多忙で、なかなか予定が合わなかったのですが......今回ビデオ通話を使った「オンライン対談」という形で時間をつくっていただけました。

松川
久しぶりに直接お会いしたかったのですが、すみません。

和田
いえいえ、とんでもないです。

松川
ちなみに、和田さんのビデオ通話の背景に映ってるのって、皆さんのチームが引っ越したスクエニ渋谷オフィスですかね?

和田
そうですよ。リィンカネの開発打ち合わせで松川さんが来社していた頃は、まだ新宿オフィスにいましたね。

松川
ですね。もはや懐かしいです。

和田
念のため......後ろを人が通ったりするので、「リィンカネのバーチャル背景にしておきますね。

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リィンカネ公式Xで配布されている、オンライン通話用のバーチャル背景。他にもいくつかのデザインが配布されている

松川
背景にママが映って雰囲気出てきましたね(笑)
今日は久しぶりにリィンカネの話ができるので、楽しみにしてきました。

和田
ありがとうございます。今回はリィンカネの中核コンテンツともいえる、「メインシナリオ」の開発をテーマにお話を伺っていこうかなと思っています。

松川
はい、なんでも聞いちゃってください。

和田
でもその前に......せっかくなので松川さんご本人のことを伺っていきましょう。だいぶご無沙汰ですが、松川さんは最近も色々ゲームを作られているんですか?

松川
そうですね。ただ......リィンカネ以降、作るものについて悩みがあって。

和田
悩みというと?

松川
すっかり"彩度の低いもの"が好みになってしまったんですよ。他の作品のディレクションをしていても、「これ、明度や彩度が高すぎるかな?」と感覚がバグってしまって(笑)

和田
それはもう、NieRの呪いですね......

松川
呪い......そうかもしれません(笑)

和田
松川さんは、度々「NieRっぽさ」について言及されてましたけど、元々シリーズのファンだったんでしょうか?

松川
はい。実は『NieR:Automata(以下、オートマタ)』が大好きで。リィンカネ初期のイベントクエストでオートマタとのコラボした時も、僕がプロットに関わっていました。

和田
ディレクター自ら書かれていたんですね。

松川
オートマタの世界観なら、自分も書けるかなと思って内緒で挑戦してみました(笑)

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リィンカネとオートマタがコラボした際の、イベントクエストのスチルアート

和田
オートマタからNieRシリーズを知って、リィンカネを遊んでくれたお客様も多そうですからね。2Bや9Sの新規エピソードに触れられて、喜ばれたんじゃないかと思います。

松川
ありがとうございます。オートマタをプレイして感じた感動を、リィンカネでも伝えられていたらいいなと思います。

和田
伝わっていると信じています。では、今日の本題へ入っていきましょうか。

松川
はい。今日は、リィンカネ発足時の企画段階の資料をいくつか持ってきました。

和田
一体、どんなものが出てくるんでしょう......

松川
まずはこれ、覚えてますかね?

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企画段階のタイトル画面。『NieR Re[in]carnation』というタイトルに決まる前の、仮タイトルが載っている

和田
あ~懐かしいですね。確かに、開発初期は「ニーア グランギニョール」という仮タイトルがつけられていました。

松川
こんな感じで、当時の開発資料を色々用意してきたので、見ながらお話できればと。

和田
期待が膨らみますね。

Lv2.「発明」するしかない!

和田
では、まずは企画段階のお話からお伺いできればと思います。

松川
よろしくお願いします。

和田
リィンカネは、『檻』や『武器の記憶』といった独特な世界観のうえでメインシナリオが描かれますが......ゼロから作りあげることに様々な苦労があったのではないでしょうか。

松川
そうですね。最初にイメージを固めるために、モックを組むことから始めました。

和田
ゲームの見た目や遊びの方向性がわかるような、試作品を作ってみるわけですね。

松川
はい。リィンカネキャラのモデルが作られる前なので、オートマタで使用されていたキャラのモデルを使ってモックを作っていました。
実際に、映像を観ていただくのがわかりやすいと思います。

リィンカネの初期モック。2Bがキャラモデルとして使用されている貴重な映像

和田
企画会議で初めて観た時に、感動した記憶があります。当時のスマホは今ほどスペックが高くなかったのに、その中でオートマタのキャラがそのまま動くんだな、と。

松川
このモックの映像からも、3Dマップの『檻』と2Dマップの『武器の記憶』を交互に体験するゲームなんだということが伝わると思います。

和田
ですね。そういったゲームサイクルやアートの方向性を決めるのが、モックの意義なんでしょうか?

松川
それもあるのですが......モック段階では、クリエイティブディレクターであるヨコオさんと一緒に、本制作に関わる別のことも決めていました。

和田
そうなんですね? なんだろう?

松川
モックを使って固めたのは、キャラの「移動速度」なんです。

和田
移動速度とは......意外でした。

松川
それによってゲームの"背景が移り変わる秒数"が変わるんです。背景をどれだけ作るかは、開発コストにも影響が大きいんですよ。

和田
なるほど。キャラが速く走れるほど、背景がどんどん移り変わって、たくさんの背景を作る必要がでてくる......ということですね。

松川
はい。そうやってゲームの基盤を設計したら、ようやく世界観やアートを考えていく段階になります。例えば『檻』の場合だと......このアートとか、覚えてますかね?

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『檻』のビジュアルを決めていくために使われた、初期のコンセプトアート

和田
ありましたありました。それなら......僕はこのアートが印象に残っていたりします。

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『檻』のビジュアルを決めていくために使われた、初期のコンセプトアートの別案

松川
懐かしい(笑)
『檻』が今の形になるまでに、何通りものアートを描いてもらって試していました。

和田
『檻』はビジュアルの美しさが特徴的ですが、リィンカネのような運営タイトルだと、継続的に3Dの背景を作っていくのは大変そうですよね。

松川
その通りです......(笑)

和田
効率よく制作するための工夫としては、どういったことをされていたんでしょう?

松川
最終的に『檻』では、石造りの"パーツを組み合わせる"形に落ち着きました。

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最終的な『檻』のコンセプトアート

和田
石造りの塔が立ち並ぶという世界観は、そういったコスト面のことも考慮されていたんですね。

松川
コスト面も考えてアートを決めることは、ヨコオさんからも強く要望があった部分でした。

和田
でも、結局美しさへのこだわりが捨てられず、毎章ユニークで作ってしまっていた......ということはよく運営中に耳に入ってきました(笑)

松川
多少の流用は効くのですが......今回は、その話は置いておきましょう......(笑)

和田
さて、ここまでで『檻』の制作における様々な試行錯誤が垣間見れました。『武器の記憶』も同じように大変だったのではないでしょうか?

松川
そうなんですよ。『武器の記憶』は参考にできる作品や資料が本当に少なくて。ほぼ「発明」するような気持ちで作り上げました。

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『武器の記憶』のゲーム画面(開発当時のもの)。2Dによって表現されることから、開発では「絵本」パートという名称で呼ばれていた

和田
「朗読劇」の形にすることは最初から決まっていたんですよね。

松川
はい。なので、そのテイストに合うような『武器の記憶』のアートもたくさん描いてもらっていました。例えば、こんなアートとか......

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『武器の記憶』の背景アートイメージ

和田
童話が語られる絵本のような雰囲気のアートですね。あとは、こういったリアルテイストのアートも描かれていましたよね。

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『武器の記憶』の背景アートイメージ。別案

松川
今見返すと、いろんな方向性が試され――、苦労――――跡が見え――ね(笑)

和田
あれ、松川さん? ちょっとビデオ通話の音声が途切れてます?

松川
え......あ、声届いてます?

和田
大丈夫みたいです。正常に戻りました。

松川
よかったです。僕達が画像や動画を映しすぎて、ネット回線が圧迫されたのかもしれませんね(笑)

和田
そのおかげで、貴重な開発資料がたくさん載ったブログ記事になると思います(笑)

松川
開発初期のモックやアートは懐かしさ半分、恥ずかしさ半分ですけど。こうやって日の目を見るのはうれしいですね。

Lv3.見えない工夫を詰め込んで

和田
こうした試行錯誤を経て、『檻』や『武器の記憶』が生まれていき......その上にメインシナリオが乗せられていくわけですね。

松川
開発的にも、ようやくといった感じです。

和田
リィンカネは「少女と怪物の物語」「太陽と月の物語」「ヒトと世界の物語」という3つのメインシナリオから構成されるので、それぞれ順を追って話していければと思います。

松川
では、まずは「少女と怪物の物語」ですね。

和田
最初にシナリオを読まれた時、どう感じられましたか?

松川
そうですね......やっぱり「考える余白」や「余白の美しさ」がありますよね。受け取った瞬間に、ヨコオさんのシナリオだと思えました。

和田
読み手によって受け取り方が変わる物語ですよね。

松川
そうですね。救われたのか、救われていないのか......その判断をお客様に委ねている感じ。そんなところが初めて読んだ瞬間に好きになりました。

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「少女と怪物の物語」のエンディングムービーの制作過程。喪失の中にも希望が見えるようなラストシーンだった

和田
「少女と怪物の物語」だと、主人公であるフィオの体調が悪くなった時、画面にノイズが入る演出は印象的でした。あれは、オートマタのオマージュ的な演出だったりしますか?

松川
そうですね(笑)
オートマタファンとして、リィンカネでも取り入れたかった演出のひとつです。

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弱っていくフィオに呼応するように、画面や音声にノイズが混じっていく演出がなされた(ゲーム画面は開発当時のもの)

和田
随所に、松川さんのこだわりが詰まっているということですね。

松川
こだわり自体は、かなりありましたね(笑)

和田
続いて、「太陽と月の物語」の話に移りますが......ここで『檻』の見た目が大きく変わりましたよね。

松川
はい。少女と怪物の物語では『檻』の特徴付けとして「布」が使われていたのですが、それが「鉄」に置き換わりました。

和田
なかなか大きな変更に思えますが、開発としても苦労されたのではないでしょうか。

松川
そうですね......鉄になったことで、スマホ上で処理しきれるかのテストが必要になりました。

和田
鉄は、構造物としても複雑になりそうですしね。

松川
モデルも複雑になりますし、鉄の反射や質感を入れると描画負荷が大きくなってしまいます。どう工夫して実現させるか、相当考えましたね。

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『檻』に鉄の要素を組み合わせるための試験的なモックイメージ

和田
具体的にはどんな工夫を?

松川
遊んでいて気付かれた方がいるかはわかりませんが......実は「少女と怪物の物語」の時より、カメラが"寄り"になっているんですよ。

和田
カメラが寄ることで、画面内に映るものが減る......ということでしょうか?

松川
まさしく。鉄の要素が加わって描画処理が重くなったぶん、一度に画面に映る範囲を狭くすることで処理負荷を下げた......という感じです。

和田
そんな見えない工夫があったとは。

松川
そういう"落としどころ"を決めることも、ディレクターの役割ですね。カメラが寄り引きすることで結果的にメリハリが出て、見映えも良くなりました。

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最終的な「太陽と月の物語」の『檻』のコンセプトアート。石造りの塔と、鉄の要素が見事にマッチしている

和田
貴重なお話をありがとうございます。では、最後に「ヒトと世界の物語」にまつわるエピソードもお伺いしていきましょう。

松川
そのシナリオの開発は、本当に色々なことがありましたね......

和田
そうですね......

松川
............

和田
............

松川
すみません、色々思い出して黙っちゃいました(笑)

和田
同じくです(笑)
「ヒトと世界の物語」の開発で最初にヨコオさんから受けたオーダーが、『檻』の構造をがらっと変えるものでしたよね。

松川
『檻』が上下対称になったりして、キャラが天井を歩いたりするんです。最初に聞いた時は「無理では?」と思いました(笑)

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「ヒトと世界の物語」のゲームシーン。天地が逆さまになり、天井を歩いて進むステージがあった

和田
リィンカネの運営もしながら、同時にゲームの基盤も作り直すような開発だったんじゃないでしょうか......

松川
そうですね......ただ、ヨコオさんが書かれたメインシナリオのプロットを読んで、「無理でも作りきろう」と思うことができたんです。

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「ヒトと世界の物語」における、全体の骨子を決めるプロット

和田
「ヒトと世界の物語」では、オートマタなどのNieRシリーズとリィンカネの繋がりが明かされましたよね。僕達シナリオ班も、読んでテンションが上がっていました(笑)

松川
アプリボットの開発チームでもそうです。みんなで読み合って、「ついに!」と盛り上がってましたよ(笑)

和田
あとは、「ヒトと世界の物語」のシナリオ制作では、珍しくヨコオさんが悩んでいる姿を見ることができたのが個人的に新鮮でした。

松川
開発中の会議でも、即決されることが多い方なので。それは本当に珍しいですね。

和田
リィンカネ全体のエンディングを描く物語なので、様々な考えや想いがあったんだと思います。最終的に、しっかり最後を飾るにふさわしい物語になっていましたね。

松川
そのおかげで、我々アプリボットでも「これは僕らが作ったんだ」と胸を張れる体験にしようと、全員が力を注ぐことができました。いいものになったと自信を持って言えますね。

和田
はい。それは、シナリオ班一同も自信を持って言えます。

Lv4.一番大事な話?

和田
開発中の貴重なお話をたくさん聞かせていただきました。

松川
僕も色々と話せてうれしかったです。

和田
では、最後になりますが......サービスが終了した今、開発を振り返ってみての話を伺えたらと思います。

松川
そうですね......リィンカネは、自分がゼロから関わった初めてのタイトルだったんです。とても多くのことを吸収して、成長させていただきました。

和田
思い入れもひとしおなわけですね。

松川
そうですね。特にフィオは、娘のようにも感じていたりします。

和田
娘、ですか。

松川
はい。今回お見せしたモックの映像では、オートマタのキャラを使っていましたが......初めてリィンカネキャラとして『檻』を歩かせたのが、フィオだったんです。

和田
そうでしたね。当時の動画が残っていたので、映してみましょう。

「少女と怪物の物語」の開発初期のモック。制作途中のフィオのモデルで、『檻』を歩くことができた

松川
懐かしいなぁ......開発中は彼女がゲーム内で成長していく感覚がありましたね。

和田
松川さんは企画初期からフィオの背中をずっと見守ってきた、ということですね。

松川
そうなりますね。リリース時には、「いい舞台で世に出られたね」と、親心みたいな気持ちにもなったりしました(笑)

和田
ブログの締めとして、とてもいいお話を聞くことができました(笑)
では、最後にブログ読者の皆さまへメッセージをお願いできればと思います。

松川
はい。今もこうしてブログを読みに来てくださるお客様は、リィンカネを本当に好きでいてくださる方だと思っています。
開発者として至らない部分もあったかと思いますが、記憶に残るゲームをお届けできたなら、開発者冥利に尽きます。本当にありがとうございました。

和田
本当にありがとうございました。

松川
僕自身、今までもNieRが大好きでずっと助けられてきたので......これからもヨコオさんに恩返しできることがあればやりたいなと思っています。任命されたら、ですけどね(笑)

和田
その想いはきっと届くと思いますよ。

松川
そうだといいですね(笑)

和田
さて......今回オンライン対談として確保していた枠より、少しまだ時間がありますね。松川さんからもう一言、今だから言えることとかがあれば是非お願いします。

松川
じゃあ、せっかくなので――。リィンカネは、僕が――――まで――、――最初から――――ます。

和田
ん? ちょっと、急にまた通信が途切れ途切れに? もう一度いいでしょうか?

松川
あれ? おかしいですね。えっと、今振り返っ――、――――――秘密――――の――――

和田
あっ......本格的に聞こえなくなってきた? 松川さん?

松川
――、――――!

和田
すみません、声が聞こえなくてもう一度お願..................あ、通話が切れました。

最後に何やら気になることを仰っていたようにも思いますが......もしかして、これが松川さんの言う「考える余白」......?
さすがリィンカネのディレクター、ご自身でNieRらしさを体現して去っていかれました。

えっと......ということで、対談を締めていくのですが......
皆さま、また次回をお楽しみに......!

<おわり>

2025年07月28日

第4回:BGMのハナシ

Lv1.盛り上げ隊長?

柳川
みなさんお待ちかねぇ!
リィンカネの開発秘話が赤裸々に語られるブログ「リィンカネの作り方」。第4回のゲストはこのワタクシ......NieRチームの盛り上げ隊長こと、柳川です!

今回はこのテーマだっ! ドゥルルルルルルル......ダン!
「ビィィィィイ! ズィィィィィイ! エェェェェェンムッ!!」

和田
........................はい。
ということで、皆さまこんにちは。NieRシナリオ班のリーダーをしています和田です。今回のテーマは「BGM」ということでやっていきたいと思います。

柳川
あっれれーおかしいぞー。盛り上げていこうと思ったんですけど、和田さんは平常運転なんですか?

和田
まあ、熱量のある柳川さんと冷めた和田で、ちょうどいい温度感になるんじゃないかと思いまして(笑)

柳川
なるほど! ......って、どんな理屈ですか?(笑)

和田
では気を取り直して。今回のゲストは、NieRシナリオ班と一緒に仕事をしている柳川さんです。

柳川
よろしくお願いします!

和田
柳川さんはリィンカネでBGMに関わる仕事を担当されていたので、今回のゲストにお呼びしました。

柳川
僕がリィンカネに参画したのは「太陽と月の物語」の途中からですね。BGMを発注したり、BGMでゲームに演出付けを行う仕事をしていました。

和田
柳川さんは、前職のスキルを活かしてスクエニに転職してこられたんですよね。

柳川
はい。僕はもともと映像畑の人間だったんです。

和田
映像の仕事というと、ミュージックビデオの制作とかですかね?

柳川
まさにそうです! 「GEMS COMPANY」というスクエニがプロデュースするアイドルユニットのミュージックビデオに関わっていた縁で、和田さん達と一緒に仕事をすることになりました。

「GEMS COMPANY」が歌う「灰ト祈リ(アニメ『NieR:Automata Ver1.1a』第2クールエンディングテーマ)」のミュージックビデオ。これも柳川さんが総監督として関わっている

和田
ミュージックビデオの制作から、ゲームのBGMの演出......音楽に関わる仕事には昔から興味があったんでしょうか?

柳川
そうですね......自分の両親が演劇人でして、それが理由かはわからないんですが、昔の映画のサントラとかが家にいっぱいあったんですよ。

和田
そうだったんですね、ご両親のことは初耳です。

柳川
で、なぜか、日曜日の朝は古い映画のサントラを爆音で流しながら起こされたり、音楽に合わせてノリノリで朝食が並べられていったり。そんなちょっと変わった家だったんですよね。

和田
楽しそうなご家庭だ......

柳川
はい(笑)
そんなわけで、音楽は生活の中で身近でした。結果、BGMを扱う感性が自然と身についていたのかもしれません。

和田
BGMに限らず、柳川さんは多才な方なので、仮歌入れとか仮アテレコとか、なんでもお願いしちゃっていました。

Nintendo Switch™「NieR:Automata The End of YoRHa Edition」の発売時に行われた、ママの実況プレイ企画。チーム内でのイメージ共有のために、柳川さんがママ役となって仮ボイスを入れていた

柳川
自称「スクエニのフリー素材」ですから。犯罪以外の仕事はなんでもやりますよ!

和田
すごい自称だ......では、このブログでもBGMについて赤裸々に語っていただこうと思います。

柳川
お任せください!

Lv2.音をハメたい!

和田
今回は主に、"BGMを使ったシナリオの演出方法"について話していきたいと思います。

柳川
わかりました! 開発では「BGMアサイン」と呼ばれていた工程ですね。

和田
シナリオのシーンにあったBGMを選んで、どのタイミングで鳴らすか......という演出を指定するんですよね。

柳川
はい。リィンカネには数多くの素敵なBGMがありますが、それをシナリオが書かれたファイル上で指定するんです。例えばこんなふうに......

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物語の流れやキャラのセリフが書かれたシナリオファイルの一部。BGMの指定もこのファイル内に記載されている

柳川
行頭が「♪♪♪」になっている灰色の箇所で、BGMの演出を指定しています。

和田
書かれているのは、「BGMをスタートするタイミング」と「BGMの開発名」ですね?

柳川
はい。発売されたサウンドトラックに入っている楽曲の名前とは違うので、どの曲かわかりにくいと思いますが(笑)

和田
では、このシナリオが実際にどんな演出になったのか、動画で観てみましょう。

「太陽と月の物語」の主人公である女子高校生の陽那が、『檻』に置かれたピアノを発見するシーン。動画の17秒くらいからBGMが始まっている(動画は開発中のもの)

柳川
指定通り、陽那がピアノに触れた時にBGMが始まっていますね。

和田
流れるBGMもピアノが入った穏やかな曲で、陽那の心情にマッチしたいい演出です。

柳川
シーンの雰囲気やキャラの心情にあったBGMアサインは、映像のお仕事でも心がけていました。一方リィンカネでは、ゲームならではの難しさがありましたね。

和田
難しさというと?

柳川
映像作品と違って、ゲームはプレイヤーさん毎のプレイの仕方で"体験が変わる"という点です。

和田
立ち止まって景色を楽しみながら遊ぶ方もいれば、とくにかく先に進むプレイスタイルの方もいますからね。

柳川
はい。だからプレイヤーさんが自由に操作できるシーンでは、BGMの指定がしにくいんですよ。

和田
先ほどの動画のようなイベント中だったり、道中のドアを通ったら......みたいな明確な「トリガー」をもとにBGMを制御することになるわけですね。

柳川
そういった制約の中で、BGMアサインをするのは新鮮でした。難しくもやりがいはありましたね。

和田
逆に、リィンカネにはムービーで表現されたシーンもありましたが、そこは映像のように自由なBGMアサインができたと?

柳川
まさにそうです! 特に「太陽と月の物語」の祭壇で流れるムービーは、うまくBGMがハマったなと印象に残っています。

「太陽と月の物語」のターニングポイントとなるムービー。主人公である高校生達が、旅の目的を一時的に果たすシーン(動画は開発中のもの)

和田
魔法陣が展開して映像が激しくなると同時に、BGMも盛り上がっていて......改めて観てもお見事なアサインです。

柳川
BGMに合わせてムービーが作られたと思えるくらいにぴったりハマって、気持ちよかったです(笑)

Lv3.レイヤーって?

柳川
ここからは、BGMアサインの応用編ということで、楽曲の「レイヤー」のお話もできればと思います。

和田
楽曲の「レイヤー」というのは、あまり聞きなれない言葉かもしれません。

柳川
実はリィンカネのBGMの多くは、1曲をいくつかのレイヤーに別けても聴けるようになっているんです。
例えば、「Madoromi - 微睡」という曲なら......

楽曲「Madoromi - 微睡」のレイヤー構成

レイヤー 説明
コーラスレイヤー 女性コーラスが入ったレイヤー。
ベースレイヤー コーラス以外の、いくつかの楽器の音色が入ったレイヤー。


和田

表だけだとわかりにくいですかね。実際にこの曲が流れるシーンも見てみましょう。

楽曲「Madoromi - 微睡」がアサインされたゲームシーン。動画の11秒くらいからレイヤーが追加されている(動画は開発中のもの)

柳川
どうでしょう? 歌姫マリーが涙を流すタイミングから、女性コーラスのレイヤーがインしていることがわかると思います。

和田
その涙が彼女にとってどんな意味合いを持つのか、語られずとも伝わってくる気がしますね。

柳川
他にも「Normandy - ノルマンディー」という曲は3つのレイヤーに分かれていて、使い方によって雰囲気がまったく違う曲にもなるんですよ。

楽曲「Normandy - ノルマンディー」のレイヤー構成

レイヤー 説明
ボーカルレイヤー 女性ボーカルが入ったレイヤー。
オケレイヤー オーケストラの音色が入ったレイヤー。
ハープレイヤー ハープのメロディが入ったレイヤー。


和田
この曲に関しては、もともと異なる雰囲気の2つのシーンで使い分けたくて、発注していた楽曲でもあります。

柳川
まずは、「ボーカルスレイヤー」と「オケレイヤー」を合わせて使ったシーンを観てみましょう。

楽曲「Normandy - ノルマンディー」がアサインされたライブシーン。舞台「ヨルハ」の同名の楽曲が原曲となっている(動画は開発中のもの)

和田
次は「ボーカルレイヤー」と「ハープレイヤー」が使われたシーンをどうぞ。

楽曲「Normandy - ノルマンディー」がアサインされた街中ライブシーン(動画は開発中のもの)

柳川
2つのシーンを見比べると、BGMの印象がまったく違うことがわかりますね!

和田
盛り上がったり、静かで心地よかったり......レイヤーの切り替えだけでこれほど変わるとは。

柳川
印象がガラッと変わってしまうぶん、レイヤーは使い方を間違えないようにしないといけません。

和田
リィンカネにはそれなりの曲数があると思いますが、使い分けるコツはあるんでしょうか?

柳川
うーん。とりあえず、BGMアサインの仕事でまず最初にやることは、同じ曲をレイヤー別に何百回も聴いて頭に叩き込むことですね。

和田
凄い回数ですね。それがBGMを魅力的にアサインする秘訣......

柳川
若干、力業の感じもありますけどね(笑)

和田
さて、ここまでBGMアサインのテクニックをいくつか伺うことができましたが、それらを組み合わせて演出されたシーンはありますかね?

柳川
そうですねぇ。例えば、このシナリオとか?

b04_lv03_01.jpg

「太陽と月の物語」4章のシナリオが書かれたファイルの一部

和田
「♪♪♪」の行を見ると、レイヤーの指定やフェードアウトの秒数など、細かな演出指定がされていますね。こちらのシーンを実際に見てみましょう。

電脳世界で2人の少女が対峙するシーン(動画は開発中のもの)

柳川
動画とシナリオファイルを見比べてみると、その通りにBGMが変化していることがわかってもらえると思います。

和田
普段ゲームをする中で、BGMの変化まで気にして遊ぶ方はあまりいなさそうですが、実は細かな制御がされているんですよね。

柳川
ちなみに。途中からインしているレイヤーは、二人の間に流れる膨大な量のデータをイメージしていたりします。

和田
なるほど。物語的な意味も考えながら演出するとなると、改めて大変は仕事だと思えてきますね......

柳川
とんでもないです。もともと映像の仕事をしていた自分からすると、BGMアサインはご褒美みたいな仕事なんですよ。

和田
ご褒美ってことは、楽しい作業なんですね?

柳川
はい(笑)
和田さんもやりたかったんじゃないです?

和田
その気持ちはあります。ただ、"このシーンはこの曲で"ってところは、自分からBGMの希望も出させてもらいましたし、全体的に納得のアサインになっていると思います。

柳川
BGMアサイン担当も、シナリオ担当も納得できていれば何よりですね!

Lv4.突然始まるトップ3

和田
「BGMアサイン」の工程で、如何にシナリオが演出されていたかがわかりましたね。

柳川
お客様の記憶に残るような演出になっていたらいいなと、思っています。

和田
そう願っています。
ただ今となっては、今回紹介したような演出を実際にゲームで確かめられないのが悔やまれますね......

柳川
......おいおいおい和田さァん? そんな辛気臭い顔してどうしたんダイ!?

和田
!?

柳川
それではここで! リィンカネのBGMに触れられる特別コーナー「推し曲トップ3」が始まるぜェ! まずはワタクシ柳川のトップ3を発表だ! ダダァーン!

柳川の好きなリィンカネBGMトップ3

1位 「Inori - 祈リ」
メロディーラインがエモエモのエモ!
2位 「Hengai - 辺涯」
アドレナリンがドバドバのドバ!
3位 「Shūu - 驟雨」
曲を聴くだけで、情景が脳内にブワァブワァのブワァ!


和田
では便乗して、和田のトップ3も載せておきます......!

和田の好きなリィンカネBGMトップ3

1位 「Kusabi - 楔」
いつかオケコンで聴けることを祈って。
2位 「Sabigoe - 寂声」
オープニングに使われた曲で、様々な思い出が蘇る......
3位 「Komorebi - 木漏レ日」
落ち着いて想いを馳せられます。


柳川

ふぅ~。今回のブログ、やりきった! 今日はもう退勤してもいいですよね(笑)

和田
まったくもう......柳川さんという楽曲に、急に「盛り上げ隊長レイヤー」がインされてびっくりしましたよ。なんて。

柳川
......さぁ、というわけで、とりあえずブログの締めに入りますか!

和田
あれ。上手いこと言おうとして滑ったことに対しては、盛り上げてくれないんですか。

柳川
盛り上げはメリハリが大事なので、メリ(減り)と判断してスルースキルを発動させていただきました(笑)

和田
何も言い返せない......

柳川
でもこうやって、ブログを通してリィンカネのことを思い出せるのはいいですね。

和田
はい。それにNieRシリーズ15周年では、他にもリィンカネに触れられるイベントが盛り沢山ですから。

柳川
今回のテーマでもある、"NieRの音楽"に触れられるオーケストラコンサート『NieR:Orchestra Concert re:12024 [ the end of data ]』も開催されますし。

和田
NieRシリーズ初の展覧会『NieR 15th Anniversary EXHIBITION 消セナイ記録』も見逃せないです。リィンカネの展示もありますので。

柳川
展覧会の入り口近くでは、僕が編集した映像も見ることができます。展示と合わせて楽しんで頂けたら幸いです!

和田
ということで。今年はまだまだリィンカネを忘れることはできなさそうですね。

柳川
いとありがたし!

和田
では、柳川さんから最後に一言お願いできればと思います。

柳川
はい! 音楽は感性に大きく関わる部分なので、人によって受け取り方は多種多様です。そんな中、なるべく多くのNieRファンの皆様に喜んでもらえるよう意識して、BGMアサインを頑張りました! 楽しんでもらえていたらうれしいです!

和田
さて、今回はBGMによるシナリオの演出方法を中心に語ってきました。
また次回更新もお楽しみに......!

<おわり>

2025年06月30日

第3回:アートのハナシ

Lv1.特別ゲスト

和田
こんにちは。
「NieR Re[in]carnation(以下、リィンカネ)」シニアシナリオライターの和田です。
リィンカネの開発秘話をお届けするブログ「リィンカネの作り方」も第3回となりました。
今回のテーマは「アート」ということで、特別なゲストをご紹介します......!

ももぢる氏
こんにちは。リィンカネでキャラクターデザインを担当していました、ももぢる氏です。

和田
本日はよろしくお願いします。
そして......今回はなんと、ゲストがもうお一人いらっしゃいます。

羽山
リィンカネでコンセプトアートを担当していました、羽山です。よろしくお願いします。

和田
リィンカネを開発した株式会社アプリボットさんから、アートに携わっていたお二人をゲストとしてお迎えすることができました。

羽山
なんだか緊張しますね......しっかりお話できるよう頑張りたいと思います。

和田
あまり気を張らずで大丈夫ですよ(笑)
では、さっそくになりますが......お二人がどのようにリィンカネに関わっていたかを自己紹介を兼ねてお願いできればと思います。

ももぢる氏
まずは僕からいきますね。
僕はキャラクター衣装や武器デザインのディレクションをしたりもしていたんですが......とはいえ、「4コマの人」って言うのが一番伝わるかもしれません。

和田
4コマ漫画「#リィンカネな人々」ですね(笑)
僕達NieRシナリオ班が作ったネームを、ももぢる氏さんがイキイキとしたイラストで仕上げてくださっていました。

b03_lv01_01.jpg

リィンカネの公式Xで連載された4コマ漫画「リィンカネな人々」。完成した4コマ(左)は、ネーム(右)をもとに描かれた

ももぢる氏
連載ということで大変でもあったんですが、楽しく描かせてもらえました(笑)

和田
図形と文字だけで構成されたネームが、こんな素敵な4コマに生まれ変わるなんて......今見返しても驚きです(笑)
それでは、次は羽山さんにお話伺わせてください。

羽山
僕は主にコンセプトアートを描いていました。サービスの後半では、キャラ以外の部分でアートディレクションをしたりもしていましたね。

和田
コンセプトアートというと、ゲームの背景アートのようなものを連想しますが......羽山さんが担当されたものの一例を聞いてもいいでしょうか?

羽山
そうですね、少し変わり種かもしれませんが......僕がリィンカネに参画して初めて担当したのが「黒いカカシ」のコンセプトアートでした。

和田
カカシの話題になるのは予想外でした(笑)
ちょっとアートを探してみますね。えっと、これかな......

b03_lv01_02.jpg

黒いカカシは、リィンカネの舞台である『檻(ケージ)』に点在する像。このようなオブジェクト類もコンセプトアートが描かれデザインの方向性が決まる

羽山
それですそれです。
キャラのモチーフとシルエットだけでデザインする必要があったので、初めはコツを掴むのに苦労しましたね。

和田
リィンカネでは結構な数のカカシが登場しますしね。デザインパターンを考えるのも大変そうです。

羽山
本当にそうなんですよ。最終部の「ヒトと世界の物語」が、新キャラがたくさん出てくるシナリオだったら危なかったかもしれません......(笑)

和田
お二人ともありがとうございます。
では、それぞれ担当された範囲について、さらに深掘りしていきたいと思います。

ももぢる氏羽山
よろしくお願いします。

和田
今回はお二人の話にあわせて、アートも色々ご紹介したいですね。
それではよろしくお願いします......!

Lv2.キャラクターデザインの作り方

和田
まずはももぢる氏さんを中心に、「キャラクターデザイン」について、詳しくお話を聞いていきましょう。

ももぢる氏
わかりました。

和田
クリエイティブディレクターのヨコオさんやNieRシナリオ班の僕達は、アプリボットさんからアートを受け取って監修をさせてもらう訳ですが、それまでの工程でお話できるエピソードなどありますでしょうか?

ももぢる氏
そうですね......それなら、衣装デザインを考えるときに"仮ストーリー"を作っていたというお話をしたいと思います。

和田
仮ストーリー?

羽山
リィンカネでは主に、アートを先行して描いて、それにシナリオや設定を後付けしてもらう方式だったじゃないですか。

ももぢる氏
なので、アートを描く段階でもとっかかりがほしかったので、デザイナーが勝手にストーリーを考えて付けていたんです。

和田
なるほどです。どんなストーリーだったのか気になりますね(笑)

ももぢる氏
例えばフィオだったら、街で差別を受けていて貧乏なイメージが前提にあったので......「夢の中で、着せかえ人形のように衣装を着せられている」とったストーリーを考えていました。

b03_lv02_01.jpg

「少女と怪物の物語」の主役キャラであるフィオの衣装デザイン

和田
あれ、もしかしたら、それを担当ライターも感じ取っていたのかもしれません。

ももぢる氏
え、本当ですか?

和田
はい。フィオの衣装に付けられたフレーバーテキストに、「ユメの中の世界」「着せかえ人形」という言葉を使っていたものがありましたよ。

b03_lv02_02.jpg

コスチュームに付与されるフレーバーテキストの管理表(一部抜粋)

ももぢる氏
デザイナー側で考えたストーリーをお伝えしたことはなかったと思うので、意図が伝わっていたとしたらうれしいですね。

羽山
他にもリィンカネ特有のエピソードだったら、全体的に彩度を抑えるっていう"色の制限"もお話できそうだね?

ももぢる氏
うんうん。それならこの機に、僕の思い入れのあるアートを例に出して話してみようかな。

b03_lv02_03.jpgb03_lv02_04.jpg祭典シリーズの衣装コンセプトを決めるためのラフアート

和田
これは祭典シリーズの衣装ですね。しかも、ゲームではお披露目できなかったアートも入っているじゃないですか......!

ももぢる氏
こちらの衣装は、もともとヨーロッパ圏のお祭りだったり、サーカスの衣装をモチーフにしていました。

和田
それらの衣装は、もっと彩度が高めで派手なイメージがありますね。

ももぢる氏
はい。でもリィンカネのデザインとして落とし込む過程で、作品が持つ色彩のトンマナを守るよう彩度を抑えていったんです。

羽山
色だけでなく、衣装の「時代感・機能性を無視しないもの」というのは意識していましたよね。

和田
確かに同じ祭典シリーズの衣装だったとしても、中世な世界観のフィオと、超未来な世界観のキャラでは時代感が違っていることが感じ取れますね。

ももぢる氏
実は、衣装の素材だったり、生地の縫い目の出し方ひとつをとっても、キャラが生きた時代にあわせていたりします。

羽山
そこはとにかくこだわってアートを作っていましたよね。

和田
シナリオが後付けで、色の制限があって、キャラの時代感も混在して......と、リィンカネならではの制約で苦悩されていたということがひしひしと伝わってきました。

ももぢる氏
そうですね、開発後期にいくほど大変でした......(笑)

Lv3.コンセプトアートの作り方

和田
続いて、羽山さんを中心に「コンセプトアート」についてお話を聞いていきたいと思います。

羽山
頑張ります。

和田
羽山さんがコンセプトアートに着手するとき、初めにどういったことをされるんでしょうか?

羽山
他のアートと同じくまずはラフを用意するんですが、僕の場合は絵で描かずに3Dモデルを作ってしまうこともあります。
画像をお見せしたほうがわかりやすいと思うので......これですね。

b03_lv03_01.jpg

コンセプトアートのラフ替わりで制作された3Dマップ

和田
これは開発中「アラビアンナイト世界」と呼ばれていた世界の、王国のモデルでしょうか。ゲーム中に映らない範囲の街並みも作られていたんですね(笑)

羽山
はい。このモデルを使って、カッコよく見えるカメラアングルを見つけていくんです。そこから絵を何枚か起こして......という制作の流れですね。

b03_lv03_02.jpg

b03_lv03_03.jpg

3Dモデルをもとに製作された、砂と海の王国のコンセプトアート

和田
ところで、見せていただいたアートの場所では、ゲーム中バトルが発生していましたよね。そういったこともアート段階で考慮されているんでしょうか?

羽山
もちろんです。
コンセプトアートを描くときに、バトルをする広さがあるのか? シナリオでどんなイベントが起こるのか? みたいなことも全部考えておかないといけません。

和田
ゲームの仕様も諸々加味するとなると、かなり難易度の高い作業に思えます......

ももぢる氏
その点だと、「太陽と月の物語」の『祭壇』はかなり苦労していたよね?

羽山
あー、そうだったかも。

b03_lv03_04.jpg

「太陽と月の物語」で訪れた『祭壇』のコンセプトアート。様々なパターンが描かれ検討された

和田
確かに『祭壇』では、シナリオでの重要なイベントがいくつも起きますからね。

ももぢる氏
主人公の高校生2人が出会ったり、太陽と月が重なったり、バトルをしたり......盛り沢山ですよね。

羽山
なので、そもそもどんな『祭壇』のデザインにすれば、それらすべてを叶えることができるのか? と、かなり悩みました。

和田
羽山さんを悩ませた原因は、僕にもありそうです。これは「太陽と月の物語」で初期の頃に書いたプロットなんですが......

b03_lv03_05.jpg

「太陽と月の物語」のシナリオの骨子がまとめられたプロットの一部

ももぢる氏
『祭壇』の情報、数行しか書かれてませんね(笑)

和田
はい......初期のプロットはシナリオの流れを俯瞰するために、ロケーションの情報まで具体的に書いてはいかなったので。

羽山
結局3か月ほど悩み続けましたね(笑)

和田
3か月......

羽山
最終的には、『祭壇』の空間全体を3Dモデルで起こしてからイメージが固まり出して、今の形に収まりました。

和田
思った以上に悩ませてしまっていたようです......今度、ご馳走させてください......

羽山
いえ、お気にならさらずに(笑)

Lv4.お気に入りアート

和田
名残惜しいですが、お二人からアートの話を聞けるのも後少しとなってしまいました。

ももぢる氏
あっという間に時間が過ぎちゃいましたね。

和田
最後は軽めの話題で、お気に入りのアートなどを伺っていければと思います。

ももぢる氏
そうですね......先ほどお話した祭典シリーズの衣装もそうですが、パパと黒いママのデザインもお気に入りだったりします。

和田
それなら僕もよく覚えていますよ。パパと黒いママのラフデザインが大量に描かれているアートをいただいて、どれも可愛くて選定をすごく迷いました。

b03_lv04_01.jpg

「太陽と月の物語」のナビゲーションキャラクターである、パパ(上)と黒いママ(下)のラフアートの一部

羽山
そういえば、パパと黒いママのことも、和田さんのプロットにはほとんど情報が書かれてなかったですよね(笑)

和田
そうだと思います......「パパ」と「黒いママ」という名前しか情報がない中、デザインを作っていただいた訳ですね。本当にすみませんでしたとしか......

ももぢる氏
いえ、お気になさらずに(笑)

和田
では、羽山さんはいかがでしょう?

羽山
どれも思い出深いアートばかりで選びきれませんが、あえて挙げるなら「ヒトと世界の物語」の最終章のアートでしょうか。

和田
最終章というと、『巣箱』やラストバトルのエリアですかね。

b03_lv04_02.jpg

b03_lv04_03.jpg

リィンカネにおける最終章のコンセプトアート。『巣箱』と呼ばれる巨大な建造物(上)と、ラストバトルのデジタルステージ(下)

羽山
はい。きっとこれがリィンカネ最後の仕事になるんだろうなと思っていたので、それまで培ったものをすべてつぎ込んで制作したつもりです。

ももぢる氏
ラストバトルで言うと、攻撃のモーションやエフェクトとかにも羽山さんが関わっていたよね?

羽山
はい。ラストバトルのエリア全体でデジタル感のある雰囲気を出したかったので、細かいところまで手を入れさせてもらいました。

和田
お二人をはじめとしたアートの皆さんの尽力によって、リィンカネの魅力が支えられていたんだなと再認識できますね。貴重な話をありがとうございました。

ももぢる氏
僕達もアートのことを色々お話できてよかったです(笑)

和田
それじゃあ最後に、ついでのついでで......アプリボットさんからいただいたアートの中で、僕のお気に入りもちょっと紹介させてもらってもいいでしょうか......(笑)

???
(会議室のドアをノックする音)

和田
......ん?

???
あのー、失礼しまーす。

和田
あれ、福嶋さん(NieRシナリオ班)がいらっしゃいましたね。どうしました?

福嶋
対談中にすみません......あの、和田さん。対談時間をオーバーしていて、ヨコオさんとの会議時間とっくに過ぎていますよ?

和田
............あ。
いや申し訳ないです。今すぐに行きますから。

福嶋
それが......「和田さんいないじゃん」って言いながら、帰っちゃいました。ヨコオさん。

和田
ええっ、それは困りますよ? 「今日中に絶対ヨコオさんに確認を取れ」と言われている書類が山ほどあるんですが......?

ももぢる氏
ちょっと、話し込みすぎましたね(笑)

和田
対談が長引いてしまってすみません......実はお二人と久々にお話できるのがうれしくて、内心舞い上がってしまっていました。

羽山
やっぱり、和田さん少しテンションがヘンでしたよね? 開発期間中のミーティングでは、あんまり笑わないイメージだったので......(笑)

和田
この対談が記事になったら、僕の話に「(笑)」が異様に多く付いていると思います......

ももぢる氏
(笑)
それより、ヨコオさんを追いかけなくていいんですか?

和田
まあ、このあと和田が各所からツメられるだけなので、お気になさらず(笑)

羽山
それは、ちょっとは気にしたほうがいいんじゃないでしょうか......

和田
それはさておいて......この対談を締めていきましょう。お二人から読者の皆さまへ一言お願いします。

ももぢる氏
はい。今でもこうしてリィンカネを追ってくださり、本当にありがとうございます。
開発に携わったメンバーは、今はそれぞれ別のところで戦っていますが、リィンカネでの経験やキャラクター達のことは心に残り続けています。これからもずっと皆さんと一緒に、それらの思い出を胸に過ごしていきたいなと思っています。

羽山
サービス終了が決まってからも、不思議とチームの雰囲気は全然落ちていなかったことを今でも覚えています。社内にもファンの皆さまのお声が届いていて、それらが開発メンバー達の支えになっていました。この場を借りてお礼を申し上げます。

和田
お二人とも、そして読んでくださった皆さま。
本日は、本当にありがとうございました......!

ももぢる氏羽山
ありがとうございました......!

<おわり>

追記

対談中、時間の都合でご紹介できなかった和田のお気に入りアートを掲載。

b03_lv05_01.jpg

「太陽と月の物語」ワンシーンのコンセプトアート。「NieR:Automata」に登場したあるロケーションが再現されているが、リィンカネの雰囲気にあわせて光る花「月の涙」の咲く量などが調整されている

b03_lv05_02.jpg

「太陽と月の物語」ワンシーンのコンセプトアート。主人公である男子高校生の周囲に、様々な「対立」を連想させるイメージが浮かび上がっている

2025年05月28日

第2回:キャラクターのハナシ

Lv1.お体大丈夫ですか?

和田
皆さんこんにちは、和田です。
「NieR Re[in]carnation(以下、リィンカネ)」の開発者ブログ「リィンカネの作り方」第2回を始めようと思います。ではさっそく、ゲストの方をお呼びしましょう。

松尾
こんにちは。松尾です......

和田
松尾さんは、リィンカネの第1部である「少女と怪物の物語」のリードシナリオライターとして、シナリオ全体をまとめてくれていました。

松尾
よろしくお願いします......今はシナリオのお仕事からは一旦離れて、別の形でNieRシリーズに関わっています。

和田
あれ......松尾さん、ちょっと元気ないです? 風の噂で聞いたんですが、転んで膝を骨折されたとか。

松尾
そうなんですよ。履いていた登山靴の靴紐に足をひっかけてしまって。たはは(笑)

和田
笑いごとではないと思いますが......大変な時にゲストに呼んでしまってすみません。

松尾
イエ、大丈夫ですよ。もともとお医者さんにも「綺麗に割れてるね」と言われていて、だいぶ治ってきてますからね。

和田
ご無理なさらず......
それにしても、リィンカネ初期にアルゴーのお話を書かれていた松尾さんが登山靴で怪我をするなんて、少しだけ運命を感じますね。

松尾
僕とアルゴーは運命共同体なのかもしれません。

b02_lv01_01.jpg

アルゴーは、山登りを生きがいとする屈強な男。彼の登山靴には靴紐は......ない

和田
今回は「キャラクター」がテーマなので、せっかくですし、まずはアルゴーの話から始めていきましょうか。

松尾
そうしましょう。
僕の中のアルゴーのイメージは、寡黙な「昭和のガンコ親父」なんです。でもいつの間にか、お客様の間で「面白おじさん」みたいな扱いになっていました。

和田
面白おじさん......(笑) 
アルゴーがそういう扱われ方をされたのって、何がきっかけだったんでしょう?

松尾
どうだったかな? 定かではないですが、"水着"が出たイベントでしょうか。

和田
ああ......リィンカネがリリースされて初めての夏イベントで、壮年男性の水着コスチュームが配布されたあの時ですね。

b02_lv01_02.jpg

2021年に開催された夏のイベントで、満を期してリリースされたアルゴーの水着コスチューム。他のデザインパターンも検討されていた

松尾
ハイ。しかも、そのイベントで公開されたストーリーの主役が別の女性キャラで。アルゴーはその背景アートにちらっと出てくるだけなんです。

b02_lv01_03.jpg

アルゴーが小さく映りこんだスチルアート。様々な画面比率のデバイスで表示できるよう、アートは大きめに描かれている

和田
色々と訳があってそうなりましたが、ネタにされても仕方ないと言えばそう......

松尾
まあ、もともとアルゴーは崖から転げ落ちても頑なに山頂を目指すようなキャラなので、面白おじさんとして扱われる素質はありそうですけど。

和田
否定できないです。

松尾
なので、僕も骨折なんかに負けずに、張り切ってこの対談に臨みたいと思います!

和田
そこまでアルゴーを踏襲しなくても......ともかく、無理せずよろしくお願いします。

Lv2.大事なことは最後に決める

松尾
今回テーマが「キャラクター」ということで、何を話したものかと考えたんですが。リィンカネにおいては、「キャラクターの設定は一番最後に決める」ということをお話ししようかと。

和田
順番で言うと、初めに描かれたキャラクターのアートに対して、シナリオを考えて、最後にキャラ設定が決まる......という感じですね。

松尾
ハイ。僕自身、最初めちゃくちゃ驚いたんですけど。

和田
僕も、キャラ設定をある程度先に決めるのかなと思ってました。

松尾
最初からガチガチに設定を固めてしまうと、シナリオの自由度を阻むから面白くならない。「大事なことは最後に決める」......というのが、ヨコオさんの教えでしたね。

和田
ちょうどよさそうな資料があったので、これを見ながら具体的に話していきましょう。

b02_lv02_01.jpg

企画初期にキャラクターの方向性を検討するためのラフアート。王子リオン(一番右)や、義肢の女フレンリーゼ(一番左)の姿も描かれている

松尾
これって、企画初期の「荒野の三人組」のアートでしたっけ。

【荒野の三人組】
リィンカネのストーリーにおける、冒頭1~3章に登場する3人のキャラクターの総称。西部開拓時代を思わせる荒野を舞台に、彼らの生き様が描かれた。

和田
そうですね。とはいえこの頃は、3人のシナリオが荒野の世界で展開されるとは、まったく決まっていませんでした。

松尾
デザイナーさんが残しているメモを読むと、もともとは「NieR:Automata」に絡んだイメージがあったみたいですね。

和田
ポッドも描かれていますしね。このアートがそのまま採用されていたら、今とは別のシナリオになっていたでしょうね。

松尾
そうそう、僕もちょうど「少女と怪物の物語」のシナリオを作っていた頃の画像を持ってきましたよ。どの順番でキャラを登場させるかとか、ペアをどう組み合わせるかとかをヨコオさんと話をしていた時のものです。

b02_lv02_02.jpg

暫定的に決められた「少女と怪物の物語」におけるキャラクターの登場順番。最終的なシナリオの順とは異なっている

和田
ペイントソフトで即席で作った感満載ですね。開発資料のすべてが綺麗に整理されているわけではないことが、よくわかります......

松尾
まあ、開発資料はそんなものですよ。

和田
色々と気になる点があると思いますが......順番に話していきますか?

松尾
そうしましょう。

和田
とりあえず......「変な形状」って?(笑)

松尾
そこ、やっぱり気になりますよねぇ(笑)
「山男」というのはアルゴーの開発名称なんですけど、「変な形状」のペアがいたらどうなっていたんでしょう。

和田
少なくとも、1人で黙々と山に挑んだりはしていなかったかもしれませんね......

松尾
それでもアルゴーには、山に挑んでいてほしい気持ちがあります。

和田
(笑)
あとは、"1"と書かれたところに、先ほど言っていた「荒野の三人組」の最終的なデザインが配置されていますね。

松尾
その3人が組み合わせになることがこの段階で決まって。この後シナリオが作られる過程で、荒野の世界だったり、王子と従者みたいなキャラ同士の関係性が決まっていくわけです。

和田
さて、そうしてキャラアートや登場順が決まった後、ライターさんが自由にシナリオを考えていくのですが......その観点で印象的だったエピソードってありますか?

松尾
そうだなぁ......例えば、主人公のレヴァニアが棲む「怪物の世界」がよくわからなかった話とか。

和田
よくわからなかったというと?

松尾
怪物世界のコンセプトアートが既に用意されていたので、それに合わせてシナリオを考えていくのですが......

b02_lv02_03.jpg

よくわからない世界のイメージを固めるための「怪物の世界」のコンセプトアート。中心にはレヴァニアが描かれている

和田
あの世界、何も設定がなかったと思うのでシナリオの自由度が高そうですね。

松尾
自由度が高すぎて、逆に何を書いていいのかわからないパターンです(笑)

和田
そういうこと(笑)

松尾
まあ、当時は担当ライターさんも色々悩んでいましたけど。その後何度か怪物の世界を描くストーリーもあったので、今はいくつか決まっている設定もありますよ。

和田
「大事なことは最後に決める」ですね。

松尾
ハイ。

和田
でもそれなら、もう少しリィンカネで怪物世界を描く機会があればよかったんですけどね......

松尾
NieRシリーズ20周年で、また小説を書けるといいかもしれませんよ? シリーズ主人公達が一人も登場せず、様々な怪物達が登場する怪物世界の話を。

和田
マニアックすぎてボツになると思います......

Lv3.キャラマスター

和田
さて、アートからシナリオができて、ようやくキャラクターの設定が作られていくフェイズに入ります。

松尾
長い道のりですね。

和田
作られた設定は「キャラクター設定シート」と呼ばれる資料にまとめています。例えば、「リオン」の設定シートは......

b02_lv03_01.jpg

リオンのキャラクター設定シートの一部。キャラクターの性格など、様々な項目がまとめられている(※クリックで拡大してご覧ください)

松尾
ここまで設定が決められていると、キャラがどんな人物像かしっかりイメージできますねぇ。

和田
ですね。あとはリィンカネのシナリオを担当したNieRシナリオ班には、「キャラマスター制度」みたいなものがあって。

松尾
キャラ毎に、そのキャラのことを知り尽くしている担当者を決めるんですよね。

和田
はい。基本的に「キャラマスター」が、そのキャラのシナリオ原案を考えたり、設定を決めたりしています。

松尾
アルゴーのキャラマスターはもともと僕でした。当然、2Bだったり10Hなど既存のシリーズキャラは、しっかりヨコオさんを通る確認フローになっていたりします。

和田
とはいえ、やむなく他のライターさんに一部執筆を頼むケースはでてきてしまうんです。

松尾
お仕事ですからね。

和田
だから、キャラ設定シートに大事なことをまとめておいて、誰がシナリオを書いても齟齬がないようにする仕組みというわけです。

松尾
キャラの細かい心情のニュアンスとかは、ライターさんが変わるとどうしても変わってしまいますもんね。

和田
そこが難しいところです。すごく大切な部分でもあるので。

松尾
ところで、その体制だとリィンカネキャラが勢ぞろいする「ヒトと世界の物語」は、大変だったんじゃないですか?

和田
お察しの通りです......
毎章、複数人のキャラが登場するので、シナリオが更新される度にキャラマスター全員を集めて確認したりしていました。

松尾
まさにシナリオ班総出で作ったシナリオというわけですね。

和田
です......

松尾
ちなみに和田くん的に、監修で気を付けていたエピソードは何かありますか?

和田
ええと、そうですね......ちょうど設定シートをお見せしたリオンで言うと「言葉遣い」を注意したことがありました。

松尾
リオンということは、「ヒトと世界の物語」の4章「琥珀の章」のシナリオですかね。

b02_lv03_02.jpg

「ヒトと世界の物語」の4章「琥珀の章」では、王子リオンと、盗賊の少年ユディルが共に『檻』を旅した。画像は開発中のゲーム画面

和田
ですです。その章では、リオンが同年代の少年キャラと一緒に旅をするんですが......セリフが書かれたテキストの初稿だと、リオンがかなりフランクな喋り方になっていました。

松尾
ううむ......同年代の少年同士の旅ですし、そういう喋り方で書いてしまう気持ちもわかりますけど。

和田
ただ、リオンの設定シートからは「従者であるディミスが特別で、彼に対してだけは平易な言葉遣いになる」ことが読み取れるので。そこは尊重すべきかなと。

松尾
確かに。

和田
ライターさんには申し訳ないのですが、結局リオンのセリフをすべて礼儀正しい敬語に直してもらいました。

松尾
......その話を聞いて少し気になったんですが、「ヒトと世界の物語」に登場するアルゴーは少しコミカルな印象だったかな?

和田
うーん、そうだった気もします......いがみ合う女性陣の間に突然召喚されて、唖然とするシーンとかありましたしね......

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「ヒトと世界の物語」のプロローグでは、魔女サリュと和装の女アケハが争っているど真ん中に突如アルゴーが召喚された。画像は開発中のゲーム画面

松尾
アルゴーの設定シートには、しっかり「昭和のガンコ親父」ってキャラ性が書いてあるんですけどね。ほら。

b02_lv03_04.jpg

アルゴーのキャラクター設定シートの一部。確かに、昭和のガンコ親父という記載がある(※クリックで拡大してご覧ください)

和田
え、いや、別に監修漏れというわけではないですよ? あのシーンでは少し間の抜けたアルゴーの一面を出した方が、絶対面白くなると思ったんです。
「大事なことを最後に決めた」だけです。

松尾
その言葉を、都合よく使い始めましたね......

Lv4.運命を共にする

松尾
裏設定なんですが、アルゴーはラップ好きでして。

和田
ラップ? 昭和のガンコ親父の話はどこへ行ったんですか?

松尾
アルゴーの設定シートを見ていたら思い出してしまって(笑) 
ほら、これですこれ。

b02_lv04_01.jpg

松尾さん作詞、アルゴーのような山を愛する者たちに伝わる唄。実はラップだった(※クリックで拡大してご覧ください)

和田
アルゴーの「シークレットストーリー」として実装されたフレーバーテキストですね。韻をふんでいたので妙に頭に残ってます。

松尾
ハイ。これのノリは実はラップなんです。

和田
松尾さんがライターだった時点で、アルゴーが面白おじさん扱いされるようになるのは必然だった気がしてきました......

松尾
まあ、キャラクターも人も性質は変わっていくものですから。なんなら、僕自身のキャラ性も変わりましたよ。人生後半に差し掛かり、すっかり病人キャラ扱いされてしまって。

和田
またアルゴーに合わせてきましたね?
でも、たまたま膝を痛めたってだけで、病人キャラというイメージは特にないですけど?

松尾
こないだのゴールデンウィークに子供から胃腸炎をもらって、家に籠って子供用のジュースだけをひたすら飲んでました。実は他にもあって、毎日薬をバリボリ飲んでますよ。たはは(笑)

和田
いやいやいや、本当に笑いごとではないですって......

松尾
そうこう話していたら、そろそろ時間ですかね。皆さん体は大切に......ということで。

和田
はい......松尾さん、今回はありがとうございました。
そして、読んでくれた皆さまも健やかにお過ごしください......!

松尾
今もリィンカネを愛し続けてくれるお客様がいてくださり、うれしい限りです。
ありがとうございました!

<おわり>

2025年04月28日

第1回:開発初期のハナシ

Lv1.リィンカネの作り方?

和田
こんにちは。
NieR Re[in]carnation(以下、リィンカネ)」シニアシナリオライターの和田です。
シニアシナリオライターっていうのは、なんといいますか......脚本を書くライターの中でも、中途半端に地位が高い雑用係みたいなものなんですが......

それはさておき。
この度、NieRシリーズ15周年の企画の一環として、リィンカネの開発を振り返ってのブログを書くことになりました。いわゆる、「開発者ブログ」といわれるものですね。

では、さっそく今回のゲスト......僕と同じ「NieRシナリオ班」に所属しているシナリオライターの方に登場してもらいましょう。

NieRシナリオ班】
スクウェア・エニックスで2018年から活動している、主にNieRシリーズのシナリオライティングを担当するチーム。NieRシリーズのクリエイティブディレクターであるヨコオタロウ氏の指導のもと、シナリオを書いたり、雑用をこなしたり、振り回されたりしている。

福嶋
いきなり呼ばれてきました。NieRシナリオ班の福嶋です。
あの、これ、なんか真面目な感じの話をしなきゃいけないやつですか?

和田
正直に言うとですね......まだよくわかっていません。

福嶋
呼んだ和田さんがわかってないってどういう事ですか?(笑)

和田
とりあえず、毎回シナリオ・アート・音楽とか何かしらテーマを決めて、開発資料を載せたり開発裏話を話したり......というブログにしたいとは思っています。

福嶋
ふむふむ。

和田
ただ、和田が一人でやろうとすると、論文みたいな堅苦しいブログになりかねないじゃないですか。

福嶋
ああ、和田さんは元システムエンジニアですからね。

和田
だから第一回目に、チームの中でも陽気で明るい福嶋さんをゲストに呼んで、楽しそうな雰囲気のブログにしてもらおうと目論んだわけです。

福嶋
つまり、今回の記事によって、今後のブログの方向性が決まると?

和田
そういうことです。

福嶋
わかりました。お任せあれ!

和田
頼もしい限りです(笑)
福嶋さんと僕の2人は、NieRシナリオ班の設立当初から一緒に仕事をしている"1期生"で、一番付き合い長いですからね......ひとつお願いします。

福嶋
それじゃ、まずはお互いどういう業務を担当しているか、簡単に話しておきましょうよ。

和田
僕はNieRシナリオ班のリーダーをやっていて、シナリオの執筆と監修、ゲームの実装チェック、声優さんの音声収録の立ち合い......だったりと、シナリオに関わること全般をやっています。

福嶋
チーム全体のまとめ役ですよね。

和田
あとは......日々ヨコオさんから降りかかる"理不尽な要求"から、チームのみんなを守ることも大きな仕事のひとつですかね......

福嶋
和田さんはなんでも屋というか、色々大変ですよね......

和田
福嶋さんの方の業務内容はどうでしょう?

福嶋
私は、リィンカネの「少女と怪物の物語」制作時は、『檻(ケージ)』後半7~12章のセリフを書いたり、しばらく休職期間などありつつ、復帰後はママのセリフを書いたりしていました。

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ママは、リィンカネのマスコット的キャラクター。布を被ったオバケのような姿で、物腰柔らかい母親のような喋り方をする

和田
後半7~12章といえば、運送屋のセリフも福嶋さんが書いてましたよね?

福嶋
そうですそうです。運ちゃんっていう呼び方も、『檻(ケージ)』内のセリフを書きながら生まれました。

和田
実は僕の中では、福嶋さんの人柄って運送屋とイコールなんですよ。

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運送屋は、ママに似た姿をしたキャラクター。サラリーマン気質で、徹底的に現実主義

福嶋
えっ!? どのへんが!?

和田
福嶋さんは、普段しっかりした方なんですが、たまに急にはっちゃけたりするじゃないですか。「これぞウィンウィンッ!!!!」とか、リアルで言い出してもおかしくなさそうというか......

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「これぞウィンウィンッ!!!!」は、メインストーリー「少女と怪物の物語」での運送屋のセリフ。画像は開発中のゲーム画面で、グラフィックなどがブラッシュアップ前のもの

福嶋
どちらかというと、ママに似てるって言われるほうがうれしいんですが......

Lv2.ウェポンストーリー修行

和田
自己紹介も済みましたし、ブログの第一回目ということで「リィンカネの開発初期のエピソード」というテーマで話をしていきましょうか。

福嶋
私たちがシナリオ班に入って、ほぼ最初の仕事がリィンカネの企画でしたね~。「ウェポンストーリー」書き直し事件、覚えてます?

和田
ありましたね......当時は毎日、朝みんなが出社してから30分くらいで、集中してウェポンストーリーを1本書きあげる、というのをやっていた時期で。

福嶋
シナリオ班の武者修行的な感じですよね。何も考えずに、がむしゃらに書き溜めていったもんだから、それを見たヨコオさんにNGを食らって......まずは世界観とかの前提を決めなさいということでした。

和田
それでボツになったものもそれなりの数あったような。

福嶋
リィンカネを隅々までしっかり見てくださっているお客様はお気づきかもしれないですが、武器やコスチュームについているフレーバーテキストには、シリーズ毎にテーマが決まっているんですよ! 例えば、こんな表にまとめたりして。

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フレーバーテキストのルール表(※クリックで拡大してご覧ください)

和田
複数人のライターさんがバラバラなものを書いてしまわないように、内容や書式のルールを決めるのはほんと大切です。

福嶋
フレーバーテキストを書く時は、必ずこの資料を見るんですよね。テーマが決まるとライターとしてもありがたいけど、ときには難しいテーマもあったり......

和田
試行錯誤しながらそれなりの数を書いた気がしますが、もう何を書いたか忘れてしまったな......

福嶋
あ。私、和田さんが書いたウェポンストーリーで、印象に残ってるやつあります!

和田
え、どれだろう?

福嶋
グリフの「頑護の銃」だったかな。仲間の兵士たちが、グリフについて話すだけのやつです。

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武器の情報がまとまった管理表の一部。Lv1~Lv4と書かれた列に「頑護の銃」のウェポンストーリーも掲載されている(※クリックで拡大してご覧ください)

和田
よく覚えてますね......

福嶋
リィンカネ開発初期の頃は、他の人が書いた文章とか読み合ったり、何かと相談しあう機会が多かったから、1期生が書いたものは結構印象に残ってますよ。

和田
他にも、初期の思い出って何かありますか?

福嶋
うーん......
あ、私はやってないんですが、和田さんはキャラクターデザインのための参考アート集めしてませんでした?

和田
やってましたね。
キャラクターのデザイン発注のために、「こんなイメージでお願いします」っていう参考画像をあちこちから探しました。僕は高校生の制服の写真をひたすら集めたり......
当時、一緒に画像集めをしていたメンバーがいたんですが、アートセンスが尖りまくった人で。ヨコオさんも「どこからこんなアート見つけてくるの!?」って驚くぐらい、奇抜なアートを拾ってくる達人でした......(笑)

福嶋
その尖ったアートが、きっとキャラクターの初期アイデアに色々反映されてるんでしょうね(笑)

和田
あの奇天烈な画像たちから魅力的なキャラクターを生み出すデザイナーさんは、本当にすごいですよ......

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リィンカネの主人公キャラクターについても様々な姿が検討された。少女と怪物(左)、ファンタジー世界の学生(右)のようなデザインアイデアも存在した

Lv3.合宿という名の檻

和田
あと、開発初期の思い出といえば「合宿」じゃないですか? ヨコオさんとシナリオ班で、都内の旅館に泊まり込んでシナリオを作ったりしましたよね。

福嶋
あー、そんなことあったかも?

和田
まあ、合宿というと楽しそうに聞こえますが......
実際のところ、ヨコオさんからシナリオが全く出てこないので、旅館に閉じ込めて無理やり書いてもらうという企画でしたけど。

福嶋
少女と怪物の物語のメインストーリーは、その合宿で書き始めたんでしたっけ?

和田
そうでしたね。あれ、福嶋さんはあんまり合宿のこと覚えてないですか?

福嶋
うーん、覚えてない。もしかしたら、休職してた期間かもしれない。

和田
福嶋さんはシナリオ班に入ってから、産休・育休をとってますもんね。

福嶋
リアル"ママ"ですから。だから、運送屋じゃないし!

和田
根に持たないでください(笑)
合宿では、和室の大広間にスクリーンとプロジェクターを置いて、PCの画面を映してですね。そこでヨコオさんが、リアルタイムで「少女と怪物の物語」のメインストーリーのあらすじを書いていくような形式でした。それを見ながら僕たちシナリオ班が、あれこれ意見を言って......そして夜になったら、最近遊んだゲームの分析なんかを話しあったりしましたね。懐かしい。

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合宿を経てできあがった、「少女と怪物の物語」のシナリオのあらすじ。この骨子をもとに、キャラクターたちのより詳細な台詞が作られていった

福嶋
"......そう。それはとってもいい機会だったわね。"

和田
......わね?

福嶋
"ママ、感動しちゃう。そういう時代を経て、今があるんだもの......"

和田
急にママ風に喋るのやめてください(笑)
いやでも、これこそ今回福嶋さんを呼んだ意義なのかもしれない......

福嶋
"うふっ。リィンカネをつくっていた頃のお話、もっともっとしたいわ。
ママ、思うのよ。毒にも薬にもならない話をして、誰がブログを読んでくれるっていうの? ママ、みんなにしっかり届けたい。リィンカネ開発の光と闇......そしてヨコオタロウの光と闇を......──"

和田
そんなこと言って、このブログが炎上でもしたらどうするんですか?

福嶋
"平気よ。仮にこのブログが炎上したとしても、怒られるのは和田さんだもの。"

和田
ですよね......

Lv4.リィンカネを想って

和田
さて、開発ブログ「リィンカネの作り方」の第一回目ということで、開発初期の思い出を色々話してみました。

福嶋
こんな内容で本当に大丈夫なんですか?(笑)

和田
どうでしょう......(笑)
でもまあ、ブログを読んでくださったお客様の反応を見つつ内容もアップデートしていけたらなと。とにかく今回に限っては、「リィンカネの開発資料が見れたり、開発裏話が聞けるブログなんだ」......ということだけ、覚えておいていただければと思います。

福嶋
それにしても、サービスが終わってしまったリィンカネの話をまたできるとは思いませんでしたよね。

和田
NieRシリーズ15周年のおかげですよ。シリーズの周年なのに、その3作品目であるリィンカネを遊ぶ手段がないなんて、悔しいですもんね。
ゲームを遊べることの代わりにはならないと思いますが、少しでもお客様にリィンカネを覚えていただく助けになれればいいなーと思います。

福嶋
そうですね!
NieRシリーズ15周年記念としては、このブログだけでなく「スペシャルノベル」のほうも是非読んでほしいです。ちゃんとリィンカネのエピソードも公開されていますから。

和田
はい。そちらも楽しんでいただける話になったと自負しています。

福嶋
ママのモノマネしてたら、久しぶりにママのセリフを書きたくなってきました(笑)
では、私も次回の更新を楽しみにしたいと思います! 読んでくださってる方も、ありがとうございました~。

和田
楽しんでいただけたらいいなと思いながら、ありがとうございました......!
僕たちもまたリィンカネの話ができて嬉しいですし、頑張って更新していこうと思います。

福嶋
ウィンウィン~ッ!!!!

<おわり>